流通BMSを活用し、アパレル・ファッション業界のニーズに迅速かつ的確に対応

日本アパレル・ファッション産業協会
情報システム委員会委員長
(ワコール 執行役員 情報システム部 部長)
尾内 啓男 氏

 需要創造と市場拡大をテーマに、ブランド力の発信を続ける一般社団法人日本アパレル・ファッション産業協会(以下、アパレル産業協会)。現在、流通構造の改革と、企業の経営基盤の強化に向けて、ビジネスプロセスの標準化と、IT(情報技術)の効果的な活用に取り組んでいる。そこで今回は、同協会が推進する流通BMSの導入状況や将来展望を探った。

 


アパレル業界の発展に向けさまざまな事業活動を展開

 

 1982年、アパレル産業の健全な発展を通して国民の衣生活の向上に貢献することを目的に設立されたアパレル産業協会。現在は、「商品力強化・ビジネス支援活動」、「レベルの高い人材確保・育成活動」、「社会的インフラ整備活動」、「IT 活用・業務改革活動」の4つの事業活動を通して、アパレル企業の発展を支援している。

 

 事業活動の1つである「IT 活用・業務改革活動」では、SCM構築と取引改革の2つを柱とした構造改革事業を進めており、流通BMSの普及推進、中小企業向けシステムの構築と運用、電子タグの実用化、環境配慮型物流環境の構築などの課題解決に取り組んでいる。中でも流通BMSの対応は、ここ数年の主要テーマとして本腰を入れているのが現状だ。

 

 アパレル産業協会の加盟企業数は、2012年6月現在で正会員197団体、賛助会員125団体の計322団体。大手から中小まで、アパレル・ファッションメーカー、婦人靴メーカー、スポーツ用品メーカーなど幅広い顔ぶれが並ぶ。

 

 

主要取引先の百貨店と流通BMSでデータ交換

 

 アパレル産業協会では、過去20年近くにわたってEDIの標準化に携わってきたアパレル産業協会情報システム小委員会委員長でワコール執行役員情報システム部長の尾内啓男氏は「これまでにも産業情報化推進センター(CII)が開発したCII標準や、CIIを独自に発展させたJAIC手順を導入するなどして、電子データ交換(EDI)の標準化に努めてきましたが、いずれも標準化には至っていません」と振り返る。その結果、取引先が増えれば増えるほどメーカーは専用の接続方式を用意する必要に迫られ、加盟企業のIT部門や業務部門には大きな負担がかかっていた。

 

 一方、ファッションに対する消費者の嗜好が多様化した結果、主要取引先である百貨店からも商品のサイズや色など、MD分析に活用する詳細なデータの提供が求められる。メーカーとしては、これに対応するため、商品マスターの標準化も課題のひとつだった。

 


 こうした状況を受けてアパレル産業協会は、04年に経済産業省が実施した実証実験に参画し、次世代EDIである流通BMSへの対応を進めてきた。流通BMSの導入目的について尾内氏は「企業間のデータ交換はできる限り標準化してコストや手間を削減し、本来のビジネスである商品企画や品ぞろえ、付加価値の提供などで競争することが理想です。そのためには、EDIの標準化に取り組む必要がありました」と語る。

 実証実験の参加以来、アパレル産業協会として流通BMSの導入を積極的に進めてきた結果、現在は髙島屋、小田急百貨店、丸井の百貨店3社と複数の加盟企業が、流通BMSの仕様に即してデータ交換を行っている。今後、大手の一角を占める西武百貨店とも流通BMSによるデータ交換を始める予定で、その後も百貨店の対応と歩調を合わせていく構えだ。

 現在、流通BMSを導入している加盟企業は、アパレル産業協会が独自に把握している数で約40社(12年6月現在)で、正会員の約20%に相当する。

「11年9月に髙島屋が流通BMSに全面的に切り替えたことをきっかけに、対応する加盟企業が増えました。企業数では全体の20%程度ですが、その多くが大手アパレルメーカーであることから、売上金額のカバー率ではかなりの割合を占めています」(尾内氏)

 

 尾内氏が所属するワコールでは、百貨店以外に大手総合スーパー(GMS)との取引も多く、流通BMSへの対応は着々と進んでいるという。

「当社の例でいうと、流通BMSに移行した結果、データ受信速度の向上や出荷時間の前倒しといった面で確実に成果が現れました。個別対応のプログラム数も確実に減りつつあり、目に見える成果は今後現れてくると期待しています」(尾内氏)

 


経営層に向けて長期スパンで流通BMSのメリットを訴求

 

 アパレル産業協会の加盟企業の主要取引先はほとんどが百貨店で、現段階では従来型のEDIでも業務が過不足なく回っていることから、流通BMSの対応スピードは総合スーパーなどと比べてスローペースだ。というのも、高級紳士服や高級靴といった高価なアイテムを扱う百貨店は、日用雑貨を大量に扱うスーパーと比べてデータ量が少なく、従来のJCA手順が抱える通信スピードの遅さや、通信用のモデムの生産中止といった差し迫った課題を意識せずに済んでいるケースが多いからだ。

 

 「私たちメーカーは、取引先である百貨店の要望に応じて流通BMSに切り替えていくのが現状です。そのため、百貨店から「流通BMSに切り替えましょう」と声がかかるまでは従来どおりの通信手順を継続することになります。百貨店の多くは、基幹系システムや販売系システムの老朽化による切り替えや、IT投資サイクルのタイミングで流通BMSの導入を検討することが多く、スーパーのように業界を挙げて流通BMSの導入を急ぐといった動きは現時点で見られません」(尾内氏)

 

 一方でアパレル産業協会としては、加盟企業がいつでも流通BMSに対応できるように、基本知識やシステムに関する情報の提供に余念がない。情報システム小委員会の上部組織であるSCM推進委員会では毎年1回報告会を開催し、加盟企業の流通BMSの対応状況や、委員会の新たな取り組みを紹介。また、不定期で開催される会員向けセミナーにおいても、ソリューションメーカーと共に流通BMSに関する講演を行い、普及活動に励んでいる。


「流通BMSの立ち上げの頃には大きなセミナーを開催して周知徹底を行ってきました。黎明期を過ぎて普及段階に差し掛かっている現在は、個別企業からの質問や相談に情報システム小委員会が中心となって対応しています。また、加盟企業が流通BMSの標準仕様から逸脱して取引先独自の個別対応に走らないように、各社のシステムの仕様を監視することも私たちの役目です」(尾内氏)

 最後に尾内氏は流通BMSの普及に向けては、経営層の理解を得ることがカギと指摘。「流通BMSの導入は初期コストがかかるだけに、接続先が1社、2社だけでは大きなメリットを感じるまでには至りません。経営効果を高めるためには、より多くの取引先が対応していくことが求められます。そのため、経営層に向けては長いスパンでメリットを訴求していく必要があり、アパレル産業協会としても粘り強くサポートしていきます」と語った。

 

 

 

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