【SCSK】ファミリーストアさとう タブレット(iPad)を使ったスマクラを導入し 増大していた手書き伝票の入力を8割削減

株式会社ファミリーストアさとう
代表取締役 社長
佐藤 祐介氏

 

 岐阜県高山市で5店舗の食品スーパーを展開するファミリーストアさとう。地域に愛されるご当地スーパーとして飛騨の特産品を数多く揃え、地元住民の食生活を支えている。同社はそれまでほとんどの受発注を手書き伝票で行ってきたが、新店舗の出店で入力作業に限界を感じた。
 そこで、2013年よりスマクラの導入を開始し、流通BMSへの切り替えを進めている。スマクラ導入に至る経緯と今後の取り組みについて、代表取締役社長の佐藤祐介氏に話を聞いた。また、サービスの提供事業者であるSCSKの江南哲氏には、その概要について語ってもらった。

 

 

飛騨地方の食材にこだわり、新鮮な生鮮食料品や地場の加工食品を提供

 

 江戸時代の古い街並みを残し、朝市や高山祭などで知られる岐阜県高山市。ファミリーストアさとうは、観光客で賑わう高山駅から少し離れた市街地において、食品スーパーを5店舗展開している。売上高は年間約60億円で、従業員は約200名。1963年の開業以来、地元住民から圧倒的な支持を集めるご当地スーパーだ。行動指針として「すぐやる。相談する。全員でやる。」を掲げ、「飛騨をこよなく愛し、食はさとうと言われるべく、働くもの全員が努力し、お客様と私達の夢を実現する」ことを社訓としている。
 開業時から飛騨地方の食材にこだわり、朝市で仕入れた野菜や、近隣で取れた新鮮な魚介類、店内で料理した揚げ物や煮物などの総菜類を提供してきた。加工食品売り場には、地場のメーカーが製造する漬け物、豆腐、調味料などが所狭しと並んでいる。13年2月には人気タレントのマツコ・デラックス氏のトーク番組で取り上げられ、飛騨のソウルフードとしてなじみの深い味付け油揚げ「あげづけ」をマツコ氏が大絶賛。その他にも郷土食品の「めしどろぼ漬け」「豆つかげ」「飛騨清見ソース」などが紹介され、放送終了後はオンラインショップに全国から注文が殺到した。

 

「普段使いとして、何気なく食べていた飛騨の地元食材ですが、全国放送で紹介されて話題になったことで、改めて地元商品の素晴らしさに気が付きました」と佐藤氏は説明する。

 

 

5店舗目の出店で2人の事務員による伝票入力作業がパンク

 

 そんな同社が流通BMSの導入を考えたきかっけは、12年11月に5店目を出店したことだった。4店舗までは膨大な手書伝票を2人の事務員が処理をしていたが、1店舗増えて1カ月で処理する伝票が1万枚を超え、対応が間に合わなくなってしまったのだ。
「それまでも伝票処理の遅れは多少発生してはいたものの、何とか人のパワーで乗り切ってきました。しかし、ついに限界を超えたことを悟り、システム化が不可欠と判断しました」(佐藤氏)

 

 システム化を検討してはみたものの、特定の団体に属していない同社は、そのやり方がわからない。その時、佐藤氏の脳裏に浮かんだのは、以前どこかで目にした「スマクラ」の紹介記事だった。「ひょっとしたら、うちがやりたいのはこれなのでは?」と考えた佐藤氏は、販促支援を受けているブルーチップに相談し、13年1月に東京で行われた流通BMS説明会に参加する。

「最初は大きなスーパーが使っているシステムが、当社のような小規模なスーパーに合うのか不安でしたが、温かく迎え入れていただいたことで安心しました。その中で、スーパーの大多数が流通BMSという方向に進もうとしている動きを知り、波に乗るなら今しかないと判断しました」と佐藤氏は振り返る。

 

 さらに、小規模なスーパーでも導入の負担にならないスマクラのコストパフォーマンスも採用の決め手となった。同社では以前にもEDI化を検討したことはあったが、高い初期コストと複雑なカスタマイズ要件がネックとなり、導入に至らなかった苦い思い出がある。しかし、クラウドサービスのスマクラなら、ハード面での投資が不要で、多額なコスト負担と運用負荷の増加が避けられるため、当初の不安も解消できたと言う。

 


既存のフローを見直して分類し、無理のない段階的な導入を開始

 

 スマクラの導入は13年4月から着手したが、待ち受けていたのは、プロジェクトチーム作りというハードルだった。同社規模のスーパーでは、システム関連に明るい担当者が存在しているわけではない。そこで佐藤氏が自らプロジェクトリーダーとなり、仕入、販促、店舗などそれぞれの業務部門からメンバーを選任し、一体となって取り組むチームを発足させた。

同社でカバーできないシステム面は、SCSKが全面的にバックアップし、基幹システムの導入・運用ベンダーである中部テラオカと寺岡精工とも連携を取り、それぞれの役割を明確にすることで、円滑な計画遂行を目指した。

 

 

 


 プロジェクト開始にあたり、最初に行った作業が既存のフローの見直しだ。同社の取引先は、大手のメーカーから、地場の食品加工メーカー、卸売事業者、個人の生産者まで約120にのぼるが、発注・納品形態はいくつかに分かれている。大手のメーカーや卸売業者とは、バックヤードに並んだハンディ・ターミナルを使って各店舗から取引先ごとにEOS発注を実施していたほか、特売品や大量発注品などは、電話やFAXでも発注を行っていた。

 

 さらに、地場のスーパーならではの大きな特徴に、漬け物や豆腐加工食品など地場の加工食品を扱うメーカーが自ら店舗に商品を置いていく「ルートセールス型」の納品がある。ルートセールス型とは、店舗からは商品を発注せず、メーカーが売りたい商品を店舗に当日搬入し、あらかじめ割り振られた棚に売りたい数量だけ並べていく昔ながらの方式だ。納品伝票はメーカーの担当者が手書きで記載して置いて帰るだけで、店舗のスタッフは発注から納品までいっさい関与しない。つまり、店舗からの「発注」は存在しない特殊な取引となる。

 

 このように複数の受発注形態を持つ同社はまず、業務フローごとに取引先を4つのグループ分け、段階的に導入することを決定した。

 13年11月に開始した第1ステップは、それまでも個別方式でEDI取引を行いながらも、大量の手書き納品伝票が残っていた比較的大規模な取引先5社をターゲットに設定。JCA手順のまま「スマクラ for レガシー」に切り替えて標準化し、それまでの納品伝票や通常発注後のイレギュラー対応は、「出荷データ」とすることで納品に関わる紙伝票は原則廃止した。

 第2ステップは、主に中堅取引先を想定し、インターネットにつながるPCがあればすぐに導入できる「スマクラ for Web」を採用。第1ステップと同様に、発注と出荷をデータ化した。13年12月から4社が稼働を開始し、3社は準備が整い次第切り替える予定としている。

 EDIを正しく稼働させるためには、正しい商品マスターを基幹システムに登録し、スマクラ間で連携させることが不可欠だ。しかし、同社はそれまで発注業務としてのマスターは存在していなかったことから、新たに基幹システムで商品マスターを整備する作業が発生した。佐藤氏は「ゼロから商品マスターを作るとなると、膨大な作業が発生するだろうと予想していました。ところが、取引先が協力的であったことと、システムに詳しい中部テラオカおよび寺岡精工に取引先とのパイプ役になっていただいたことで、想像以上にスムーズに進みました」と振り返る。

 

 

iPadを活用して当日発注・当日納品の出荷データを納品時に入力

 

 14年1月からは、第3ステップとしてEDI化の本丸で、手書き伝票削減のターゲットでもある「ルートセールス型」の取引先のEDI化に取り組んでいる。対象となる取引先は全取引先の3分の1にあたる約40社で、14年3月1日からの本稼働を目指す。佐藤氏はファミリーストアさとうにおけるEDI化のカギは、ルートセールス型の対応にかかっていると言い、並々ならぬ意気込みを見せる。

 

「飛騨のスーパーマーケットとして、地元の食文化の伝え、文化の発展に貢献していくためには、地場のメーカーの協力が欠かせません。飛騨らしさを作るパワーの源は、ルートセールスで魅力ある商品を持ってきてくださるお取引先様。昔ながらの形態が今もなお残っているからこそ、大手スーパーにない地域の個性を打ち出すことができ、店舗の活性化につながっているのです。そのためにも、飛騨の流通の個性を生かしながらシステム化し、お取引先様と目標を共有化していきたいと思います」

 


 ルートセールス型のEDIを実現するために同社が採用したのが、手書き伝票の代わりにタブレット端末(iPad)を使って出荷データを入力する「スマクラ for Web(ルートセールス版)」だ。取引先は、当日納品で店舗の棚に商品を陳列する際に、その場でiPadを使って納品入力を行うだけでよい。これによって現行の業務フローを変えることなく出荷のデータ化が実現し、紙の伝票が削減できるというわけだ。

 

 店頭ではあらかじめ設定した「よく使う商品リスト」から商品名を選択し、納品数量を入力するだけでよく、納品担当者には過度の負担はかからない。納品明細書が必要であれば、店舗に設置したプリンターから印刷し、その場で受領印を受け取ることも可能だ。佐藤氏は「データ化によってお取引先様においても伝票処理が効率化されます。さらに蓄積したデータを使って過去の売上分析も可能となり、より緻密な生産・販売計画を立てることにもつながるでしょう」と強調する。

 

 iPad端末は、各店舗に2台用意して取引先に貸し出す予定だが、毎日のように店頭納品が発生するようであれば、取引先が独自に用意したタブレットや個人の端末を利用しても構わない。タブレットの導入に際しては、操作に慣れない取引先に負担をかけないように最大限の配慮をしてメニューを開発した。
「iPadの操作説明には難しい流通用語やIT用語はいっさい使っていません。できるだけ平易な表現を使って、誰でも簡単に操作できるようにしました。また、各店舗にはお取引先様をよく知るサポートスタッフを2名以上置き、使い方がわからない場合にはサポートを行う万全の体制を整えています」(佐藤氏)

 

 

飛騨の食文化を地元のスーパーマーケットとして伝え貢献していくために

 

 第4ステップは、本来の流通BMSである「スマクラ for BMS」の導入だ。第1ステップでレガシーEDIを先行導入した取引先に対し案内をして14年2月1日より稼働を予定している。また、第2ステップでWeb-EDIの導入を見送った取引先、および新たに流通BMSへの接続を希望する取引先に対して導入を進め、14年6月から稼働を開始する予定だ。

 

 現時点で道半ばだが、EDIの導入効果はすでに現れている。まず、今まで13万行あった伝票入力は第1ステップが稼働した時点で約5割の削減が実現した。14年6月に第4ステップが終了する段階では、全体の8割の伝票削減を実現させる予定だ。また、出荷データを受信することによる伝票データ入力の工数および修正工数の削減も実現している。

「工数削減の結果、今まで2人で作業していた事務作業は、1人で済むようになりました。手の空いた事務員は、急激に伸びているインターネット販売の担当に回り、現在は販売力の強化に注力しています」(佐藤氏)

 


 ファミリーストアさとうでは、14年はEDI化を本格的に進めていく年になる。14年1月15日には、全取引先に向けてEDI取引先説明会を開催。ルートセールス型の取引先に対して、積極的な参加をお願いするとともに、すべての取引先に向けて、EDIの導入を本格化していくことを宣言した。EDIの名称もすべて「さとう朝市ネット」に統一し、取引先を含めた全員で導入を推進していくことを呼びかけている。

 高齢化と人口減が続き、大型店やドラッグストアの出店が相次ぐなど、地方のスーパーを取り囲む環境は厳しい。お客様のニーズの変化や行動パターンの変化が加速する中、「何が」ではなく「何をしているか」が他社との差別化になると語る佐藤氏は、人間力、商品力、収益力の3つが重要と捉え、飛騨の食文化を伝承していく考えだ。最後にスマクラの導入に関して、次のような感想を寄せた。

「SCSKのような大手のITベンダーが、地方の小規模スーパーを相手にしてくれるとは思いもよりませんでした。当初は、コスト面やシステム導入面で、大きな壁があると恐れていたものの、実際にやってみるとそんな心配も杞憂に終わった気がしています。今まで怖いもの知らずの気持ちで進めてきましたが、お取引先様のために役に立ちたいという強い思いさえ持っていれば、どんなことでもできると改めて実感しました」

 

 

 

出荷始まりの伝票形態を、iPadを使って簡易的に実現

 


 今回のファミリーストアさとうにおけるEDI化のポイントは、それまでのEOS発注以外のFAXや電話によるオフライン発注をすべて「出荷始まり」のEDI形態としてデータ化したことにある。メーカーや卸売事業者が出荷データを入力し、流通BMSのフォーマットでデータを交換するというものだ。本来は発注始まりが基本の流通BMSだが、同社のようなスーパーの場合、出荷始まりとすることで課題が解消することがある。その最たる例が、ルートセールス型のEDIであり、店頭でiPadから入力してデータ化すること伝票の削減が実現し、後段の業務は一気に効率化されるのだ。

 

 SCSKの江南氏は「流通BMSが目指す目標の1つに、ペーパーレス化推進があるが、出荷始まりの紙伝票の運用を、iPadを使ってのデータ化により、紙伝票の廃止を簡易的に実現するのがファミリーストアさとう様の仕組みです。機動力のあるタブレットを使って簡単に入力できるようにしたことが最大のポイントです」と語る。

 

 店頭納品の標準化が実現したことで、今後新たにルートセールスの取引先が増えたり、取引先の担当者が変わったりしたとしても、新たな負担が発生することもない。また、店舗に構築した無線LAN環境を活用して、スーパー側もモバイルデバイスを使ったお客様サービスを提供していく新たな可能性も見えてきた。

 


地域未着型スーパーマーケットのEDI化はスマクラが支援

 

 07年に公開されてから順調に普及が進んでいるように見える流通BMSだが、それまでは体制に恵まれている大手・中堅のスーパーの導入がほとんどだった。店舗数では圧倒的に多い売上高100億円規模のスーパーや、地方のスーパーが流通BMSを導入している実績は残念ながらさほど多くない。ファミリーストアさとうのように、手書き伝票が依然として残っているほか、ルートセールス型の納品形態を採用しているケースも地方ほどよく見られる。こうした状況を見て江南氏は「流通BMS普及のカギは、小規模のスーパーにかかっています。EDIの導入を成功させるポイントは、目標を明確に定めることです。ファミリーストアさとう様は、伝票を減らしたいという大きな目的があったからこそ実現できたのです」と述べている。

 

 とはいえ、いざ流通BMSを導入しようとしても、どのようにしていいかわからないといった問題や、導入の体制が作れないといった悩みは、地方のスーパーほど大きくなる。そうした中で、スマクラのメリットは、パッケージソフトだけでは巻き取れない流通区分などの不足項目を吸収できることにある。しかもクラウドサービスとして提供するため、コストもかからず、導入の負担もかからない。
導入体制についても、スマクラでは大がかりな「部門」という考え方ではなく、役割を「人」に割りあてることで、大きな体制を作れない中小スーパーの問題を解消。そして、SCSKが情報システム部の一員であるかのごとく、基幹システムのベンダーとの打ち合わせを進めたり、取引先説明会に向けてわかりやすい資料を作成したりと、導入を全面的に支援することができる。

 

 江南氏は最後に「SCSKでは今回、ファミリーストアさとう様への支援と通して、中小のスーパーならでのノウハウを多く学ばせていただき、非常に感謝しています。今後は今回のプロジェクトで学んだことを生かしながら、全国各地のご当地スーパーに向けて、現実的な対応で流通BMSの導入を支援していきます」と語った。