【SCSK】与野フードセンター 『生鮮物流改革』に流通BMSを活用した取り組み 伝票入力やリスト仕分けなど紙の業務をすべて廃止 

与野フードセンター
代表取締役社長
井原 實 氏

 

商品部 物流担当 主任
宗行 利雄 氏


 埼玉県さいたま市を中心に18店舗を展開する与野フードセンターは、JCA手順で取引先とデータ交換を行う典型的なスーパーマーケットだったが、新生鮮センターの稼働に合わせてスマクラを用いて流通BMSを導入し、物流改革を行った。
 その結果、伝票レスによる経費削減、センター業務の時間短縮、管理精度の向上による誤配率の削減など、さまざまな効果を得ることに成功している。流通BMSを用いた物流業務改善の取り組みについて、同社代表取締役社長の井原實氏と、商品部 物流担当 主任の宗行利雄氏に聞いた。

 

 

地場スーパーの特色を生かすため、EDIの運用をスマクラに委託

 

 1960年に与野市(現さいたま市)で創業した与野フードセンター。現在は、大型の食品スーパー、ディスカウント型の大型スーパー、生鮮中心の小型スーパーの3業態、18店舗を展開している。売上高は約180億円、従業員は約1,350人で、「よい物を安価に」をモットーに成長を続けている。

 

 同社は全国の中小スーパーマーケット55社で構成されるボランタリーチェーン「セルコグループ」に属し、経営や流通に関する調査、研究、商品の共同仕入、共同開発を行ってきた。井原社長は「セルコグループの加盟企業は売上高100億円規模のスーパーがほとんどです。その中で、地場の商品を売る特色のあるスーパーとして、商品の陳列方法や独自の品揃え、売れ筋商品などについて加盟企業と情報交換をしながらノウハウを共有しています」と説明する。

 EDIについてもセルコグループで情報交換をし、ITベンダーを呼んで共同で勉強会を開くなどしてきた。その中で与野フードセンターは、13年4月に新生鮮センターを立ち上げる機会があり、そこに合わせて流通BMSの導入を決断。いくつかのサービスを比較した中からクラウド型の「スマクラ」を採用した。

 

 井原氏は「クラウド型ならシステムの構築コストやメンテナンスのコストが不要で、災害対策も万全にできるメリットがあります。中でもスマクラはサービスの拡張性やアベイラビリティ(可用性)が高く、長期間の正常動作が保証されていることが採用の決め手になりました。システム面の運用をSCSKにすべて任せることで、私たちは自社の要員を商品力やMDの強化に専念させることが可能になります」と語る。

 

 

物流のあり方を見直し、コスト改善を図ることが流通BMS導入の目的

 

 同社が流通BMSの導入で目指したのは、新生鮮センターによる「物流改革」だった。新生鮮センターを立ち上げた2013年当時、消費者の魚離れにより、鮮魚部門の収益がなかなか上がらないという課題を抱えていた。そこで、改めて鮮魚の物流のあり方に正面から向き合うことにしたという。

 

 それまでの生鮮センターは、生鮮卸業者様に完全委託しており、自社で物流費コントロールが上手くできないという課題を抱えていた。そこで、新しいセンターは物流事業者様に業務委託し、システムやオペレーション面にも直接的にかかわれる体制を構築した。その際、将来JCA手順が廃止されることを見据えて、流通BMSの導入が決まった。宗行氏は「流通BMSを軸としたEDIの変更と、物流のあり方そのものを見直す業務改善の2つの方向から、コスト改善を図ることにしました」と説明する。

 

 ただし、新生鮮センターは、スルーセンター(トランスファーセンター)を前提としたセンターであり、店舗での加工業務が発生する形態。開店時に店頭に商品を並べるためには、店舗すべてに開店の1時間前までに魚を届けなければならないが、配送形態は従来と変えずに切り替える必要があった。その際、流通BMSを導入し、EDIを見直したことが結果的に物流の効率化に結びついたと宗行氏はいう。

 

 同社では、スマクラを導入する以前からEOS化が進んでおり、取引先の鮮魚の卸売業者や仲卸業者へのオンライン発注は実現していた。しかし、鮮魚の場合、しけなどで漁船が出港できなかったり、天候などで予定していた数量の魚が確保できなかったりする場合があり、発注した商品が手に入らないことも多い。その際の発注に対する欠品報告書や修正報告書は、取引先からFAXで生鮮センターに送られてくるが、生鮮センター側では入力専任のキーパンチャーがパンチング作業を行って欠品・差異修正データ(出荷確定データ)を作成していた。また、物品受領書を取引先別に仕分けして送り返さなければならないなど、煩雑な手間も発生していた(図1)。

 

 

 

 それが流通BMSを導入した後は、取引先から送られてくる出荷データと、センター納品された商品とで差異が発生している時のみ、パンチング作業で修正を行うだけでよくなった。「その結果、倉庫の作業員が仕分け作業をしながら適宜入力するだけでよくなり、入力専任のキーパンチャーを置く必要がなくなりました」と宗行氏はその効果を語る。「また、取引先に返していた物品受領書は、差異がある時のみ修正リストを送るだけでよくなりました。さらに、BMS導入後は出荷データとして入庫予定情報が入庫前に確実に取得できるようになっている為、またリストや伝票での入庫作業は皆無になり、入庫作業時間も短縮されます。このような改善が各物流拠点で進むと、トラックの滞留時間が短縮され、物流業界全体に大きな効果をもたらすのでは」と話す(図2)。

 

 

 

 取引先へのオフライン発注についても、流通BMS導入以前は紙のFAXで出荷伝票を受け取っていたため、センターではリスト仕分けや配送・計上の伝票処理作業が発生し、精度と効率の低下が悩みだった。そこで、取引先に協力を要請して事前出荷案内をデータで受け取る「出荷開始型モデル」を採用。これによって差異発生時以外、伝票作業やリスト仕分けがなくなり、「完全伝票レス」を実現している。

 

「鮮魚の場合、発注と異なる商品やせり残商品も多く、出荷開始型モデルは外せないとの理由から、社内での議論を重ねて、14年秋のチェンジリクエストが出る前から取り組んできました。当初、出荷データの作成を取引先が対応してくれるか不安でしたが、取引先は大手を中心に流通BMSが普及し始めていることを認識されていて、今後は当社以外の小売事業者からも対応をお願いされるのであれば、早めに対応しておくほうがよいと判断いただけたようです。システム費用についてもスマクラ for Webならコスト負担が少なく済むというお話しを粘り強くして理解を求めました」(宗行氏)

 

 

物流業務の標準化と効率化で誤配率0.02%以下を実現

 

 流通BMSの導入に合わせて行った物流改革により、同社は伝票レスによる紙の削減、通信の高速化による時間短縮、精度向上などさまざまな効果を得たが、「本当の効果は業務の効率化と物流の変革、それによってもたらされるコスト削減にある」と宗行氏は語る。

 オフラインの時代や伝票で納品データを受け取っていた時代は、生鮮センターでリストや伝票を見ながら店別のラベルシールを貼ったりする作業も発生していた。さらに追加発注がある場合は、取引先からとりあえず仮の伝票が送られてきて、データ入力は後回しになることもあった。それが、完全伝票レスの実現により、物流段階で情報とモノはすべて1対1で紐付けされるようになり、その結果、庫内でのリスト仕分けや伝票確認業務が激減。結果としてそれらに付随するミスが少なくなり、誤配率の削減につながっている。

 

 物流の場合、誤配があると、ドライバーが店舗まで取りに行って別の店舗に運び直すため、無駄な配送費用や時間のロスが発生してしまう。ドライバー不足が深刻化している中で、誤配による問い合わせ対応にかかる人件費はもちろん、燃料費の無駄につながるため、誤配は極力避けたい。その中で、流通BMS導入後、生鮮センターから店舗に送った商品に対して、何ケースの誤配があったかを示す誤配率の推移を見ると、導入後1年目こそ変動は多大きかったが、安定稼働後は0.02%に設定した目標設定値を常に下回り、ほぼ0.01%前後で推移している(図3)。

 

「誤配率の推移が追えるようになったことで、共通の数値目標が設定でき、誤配がなぜ発生したのかを社内/委託先ミーティングで話し合う機会が増え、同じ配送ミスが起こらないように対策が検討できるようになりました」(宗行氏)

 

 

 すべてのセンター通過商品がデータ化されて計数化が容易となった結果、以前は件数のみのカウントだけだった「生産性指標」や「ケース単価」も誤配率と同様に数値での把握が可能になり、物流KPIによる効率や品質コントロールを行える素地が実現した。

 

 また、流通BMSの導入によって、店舗競争力の強化という新しい効果も期待されている。「魚は鮮度が命ですが、以前はデータ通信に時間がかかったり、データ送受信の仕組みがなかったりしたため、漁業組合や網元などの生産者と直接つながることができませんでした。しかし、通信時間が早くなり、完全伝票レスが実現したことやシステム利用料負担が軽減した事で、生産者段階でのシステム利用率も高まり、また出荷の確定情報をぎりぎりに受け取っても即座に対応が可能になり、直納によって鮮度のいい魚をすぐに店舗の店頭に並べることができるようになります」と宗行氏は述べている。

 

 

システム部以外(物流担当者やバイヤー、経理担当等)の視点で流通BMSを俯瞰することが、更なる効率化を促進させる

 

 与野フードセンターにおける流通BMSの導入は、13年4月の第1ステップで鮮魚部門と惣菜部門(センター経由)が稼働した。1年後の14年4月には第2ステップとしてグロサリー、青果、精肉、インストアベーカリー部門(センター経由)が稼働し、現在、流通BMS(スマクラ for BMS)が37社、流通BMSに準拠したWeb-EDI(スマクラ for Web)が29社対応済みだ。15年度は第3ステップとして店舗直納商品に対して流通BMSを導入し、下期までに30社程度の対応を予定している(図4)。

 

 

 流通BMSの効果を最大化するために、今後は生鮮発注の手前のメッセージや、請求・支払のメッセージの活用も検討する方針だ。流通の現場では、温度管理が複雑な商品もあるが、商品に詳しくない人では対応が難しい場合もある。流通BMSの配送温度区分のような項目が活用できれば、センター入庫時に常温、冷蔵、冷凍といった情報がラベルに表示されるため、専門知識がない人でも作業ができ、物流品質の向上も期待できるという。将来的には、流通BMSで用意している商品情報データベースや商品画像を利用して行くことにより、トレサビリティーの強化や、センターマスタ管理の低減、商品販促への活用等が更に進むものと期待を寄せている。

 

 物流面でのさらなる貢献にも期待を寄せている。生鮮の場合はケースの大きさによって積載にも影響を及ぼすが、発注や出荷情報にケースの容積データなどが記録されるようになれば、工業製品と同様に、積載量に応じて台車やトラックの正確な手配が可能になり、物流環境は改善される可能性が高い。宗行氏は流通BMSと物流について「物流現場では依然として標準化が進んでおらず、流通BMSのメリットを享受できていない事業者さんも多くいらっしゃるので、小売事業者だけでなく、物流ベンダー段階での標準化も合わせて進むことが、結果として流通全体の効率化につながっていくと思います」と話す。

 


 商品力で大手スーパーとの差別化を図るために流通BMSを導入し、着実に成果を挙げている与野フードセンター。最後に井原社長は流通BMSの意義について「20年前は数千万円、1億円の投資が必要だったシステム導入が、今はわずかな投資で短時間に実現できるようになり、導入のリスクもなくなっています。投資コストが下がっている今、大手スーパーと比べてフットワークよく動ける中堅、中小のスーパーこそ早期に流通BMSに切り替えて、導入メリットを最大化していくべきではないでしょうか」と呼びかけた。

 


「生鮮」と「物流」の流通BMS活用に取り組む、スマクラ

 

 与野フードセンターにサービスを提供しているSCSK流通システム第二事業本部クラウドサービス部部長の新井健之氏に、流通BMSの活用が謳われる中、今後キーワードとなるであろう「生鮮」と「物流」に対し、スマクラはどのように対応し、貢献するつもりなのかについて話を聞いた。 「与野フードセンター様では、「生鮮」においても、JCA手順から流通BMSへの切り替えでしたが、今後は、初めて生鮮部門のEDIに着手する、という企業が増えてくると考えられます。2007年に公開されてから大手企業で普及が進んだ流通BMSですが、売上高100億円規模のスーパーや、地方のスーパーがその導入の中核を占める段階へと来ています。しかしながら、グロサリーのみ流通BMS化していて、「生鮮」は未導入という企業が大半のように思われます。

 

 スーパーマーケットが、他業種・業態との決定な差別化ポイントは「生鮮」であるにも関わらず、情報化が最も遅れている状況を、ある小売業にお聞きしたところ、これまでは「生鮮」の特性上、電話・FAX・伝票での取引は、仕方がないこととして諦めていたのが一番大きな原因であるということでした。

 

「生鮮」は紙が多く効率化が図られていない状況なのは重々承知の上で、中小のスーパーマーケットでは導入へのコスト・ノウハウのハードルが高すぎるため、導入をあきらめているのが現状です。

また、そもそも「生鮮」のシステムが出来たとしても、取引の規模から取引先にEDI化に協力していただけないと考えていました。加えて、「生鮮」の物流センターの効率化まで実現した導入事例自体が、ほとんど報告されていなかったこともあります。大手小売業の事例だけを公開されても、中小のスーパーマーケットから見れば、大手だからできたこと、と受け止められても仕方なかったことだと思います。」

 

 新井氏は続けて、否定的であった「生鮮」を取り巻く状況の変化について語った。

「しかし現在、これら否定的な状況が激変しています。「スマクラ」では、「生鮮」の特性を含めて、流通BMSでもローコストで対応できるようになりました。これが、「オフライン発注時での出荷メッセージ標準の追加」と「標準納品明細書」です。

 

 この機能により取引先は、システム対応が容易になっただけでなく、出荷データ以降の請求照合作業の効率化が導入メリットとしてクローズアップされるようになってきたのです。

 

また、流通BMSは、個社対応ではなく、2社目以降の小売業との接続にも活用できることが理解され、協力するに値する取り組みだと取引先の考え方が変わりました。

 

 

 SCSKでは、スマクラ導入に際し、小売様に取引先にアンケートを実施するよう、お勧めしています。スマクラの導入企業が多くなる中で、取引先がJCAから流通BMSへ切り替えたい、これまでFAX運用だった企業が、EDIを導入したい、出荷始まりへの対応についても受領データがもらえるなら積極的に対応したい、といった前向きに対応する傾向が、アンケート結果として如実に現れてきています。加えて、昨年は農林水産省補助事業として生鮮取引電子化推進協議会主催で、「生鮮食品取引における流通BMS導入促進セミナー」が全国で開催されたことも、流通BMSへの認識を深める結果につながったものと思われます。

 

 与野フードセンター様の事例として、もう一つ大きな特長が、前述の記載の通り、流通BMSの導入とこの新しいメッセージ導入に合わせて「物流」の業務改善を図ったことです。

 

 

 これまでの大手の導入効果事例では、インフラの変更に伴う主にハード面での効果が中心です。いわゆる第一段階の導入効果です。一方、この与野フードセンターの取り組みは、導入効果としては、第二段階にあたります。流通BMSの、業務プロセス採用に合わせた業務改善、標準メッセージ採用に合わせた業務改善、標準物流モデル採用に合わせた業務改善をそれぞれ合わせ持った導入効果を得た事例です。

 

 流通BMS公開当初から言われ続けていたことですが、流通BMSの業務プロセスモデルは、大手小売業のノウハウの集大成です。与野フードセンターの事例は、この先人のノウハウを上手く利用して自社の業務改革につなげた今後流通BMSの導入を検討しているスーマーケットが参考にすべき先進事例であると言えます。」

 

 新井氏は最後に「SCSKでは今回、与野フードセンター様への導入を通して、中堅スーパーならでのノウハウを多く学ばせていただき、非常に感謝しています。与野フードセンター様は、セルコグループのリーダー企業として、これまでもグループ内における流通BMS普及にご尽力いただいており、スマクラとしても、今後は今回のプロジェクトで学んだことを生かしながら、一歩先を行く流通BMS導入効果享受のためのメッセージ追加導入事例として、セルコグループへの普及推進を支援していきます」と語った。