お店における音づくり スペシャルインタビュー②  環境音と音楽のブレンドが居心地をつくる

スペシャルインタビュー
エッグスンシングスインターナショナル
ホールディングス CEO

松田 公太氏

 

 

20代で、タリーズコーヒージャパンを創業、参議院議員としての活動を経て、現在はレストランチェーンの世界展開に注力する松田公太氏。カフェも、レストランも、五感に訴える環境づくりが必要という松田氏に、飲食店に求められるBGMについて聞いた。

 

試行錯誤の末 たどりついた理想のBGM

 シアトルでスペシャルティコーヒーと出会い、タリーズの日本での営業権を獲得。1997年、中央区銀座に1号店をオープンし、一大コーヒーチェーンに育て上げた松田公太氏。創業時のテーマの一つは、リラックスできる環境をどうやってつくるかだった。照明の明るさをやや抑え、壁面の色調を茶系の暖色に統一。ピッチフォークチェアといわれる、背もたれを干し草用のくま手に、脚を斧の柄に模した椅子を使うなど、落ち着いた雰囲気づくりに取り組む中、松田氏のこだわりはBGMの選曲にもあらわれる。

 

 「ロックからクラシックまで、様々な音源を試しましたが、まんべんなくいろいろな人に心地よいと感じてもらえるのはジャズじゃないかと考え、ゆったりしたテンポの軽いジャズをBGMに使うことにしました」。音量にもこだわり、オープン直後の店舗で店長として働きながら、自身できめ細かく調整し、最適な音量を決めていった。「ボリュームが大きすぎると会話の妨げになり、逆に小さすぎると寂しさを感じてしまう。お客様が少ない場合は、会話が聞こえてしまうのではないかと、声のトーンを下げてヒソヒソ声で話すようなことになってしまいます」と、松田氏。店舗の間取りもL字型やコの字型など、音の聞こえ方がエリアごとに異なる場合もある。音量についてはトライアルを繰り返しながら、設定のノウハウを学んでいったという。

 

 

ブランドへの共感から音響機器を選定

 「タリーズでは、音量の設定にかかわらずクリアな音質が得られることから、Boseの音響設備を使っていました」と松田氏。フィラデルフィア出身のアマー・G.ボーズ氏が設立したBoseは、地域のブランドを大切にするアメリカ人の気質もあって、80年代後半まで松田氏が過ごした同じ東海岸のボストンでも、市民の誇りといえるブランドだった。「いわばベンチャーとしてスタートしたブランドですから、起業家としてのシンパシーも感じます。L字型のカフェで、エリアごとのBGMの響き方を調べた経験もあって、コンサートホールの音の響きを徹底的に解析して製品開発に結びつけた……という伝説にも惹(ひ)かれました」

 

 2009年に、EGGS‘N THINGS INTERNATIONAL HOLDINGS PTE.LTDをシンガポールに設立。現在、朝に限らず昼でも夜でも、おいしくてボリューム感のある朝食メニューを楽しめるカジュアルレストランとして、国内外の展開に注力している松田氏。そんなEGGS‘N THINGSでも、象徴となる店舗、音楽による雰囲気づくりが重要だと思える店舗の音響システムには、特にこだわりたいという。

 

音楽が五感を満たす一つの要素に

 「アメリカでは、レストランを利用して、ブレックファーストミーティングが頻繁に行われます。ところが、朝食を外で食べるという文化は日本にはありません。そこで、朝行っても昼に行っても夜に行っても、朝食のメニューしか提供しないレストランがあれば、朝食は外で食べるものというイメージをつくりだせるのではないかと考えているんです」と、松田氏はいう。

 

 タリーズがスペシャルティコーヒーを楽しみながらくつろぎの時間を過ごすという、新しいライフスタイルを日本に定着させたように、数年後には、朝食は外で食べるものという文化が定着するかもしれない。「私が取り組みたいのは、日本と海外の文化を、互いにとり入れあうことなんです。音楽も食事も言葉のコミュニケーションがなくても伝わるものですから、重要なツールになると思います」と松田氏。店舗づくりでは、一貫して視覚や嗅覚、手で触れた食器や家具の質感など、五感にどう訴えるかにこだわり続ける。EGGS‘N THINGSでも、ハーフオープン形式のキッチンを採用している。「コーヒーをひく音、フライパンで目玉焼きが焼きあがる音といった『環境音』も雰囲気づくりには欠かせません。味覚や嗅覚に結びついた音と、BGMが一体となって響くことで、はじめてその空間は店舗として完成するのではないでしょうか」

 

 

 

 1974年、ハワイに誕生したカジュアルレストランEggs ‘n Things。2009年に松田氏が世界展開権(米国除く)を取得し、10年、海外初出店となる東京・原宿をはじめ、日本では現在19店舗を展開。朝食アラカルトを中心に、ハワイのロコフードやドリンクなどを提供している。今後は台湾やシンガポールにも出店予定。

 

 

 


 

松田公太(まつだ・こうた)

前参議院議員、タリーズコーヒージャパン創業者。1968年生まれ。5歳から17歳までの大半を海外で過ごす。97年、タリーズコーヒー創業。2009年には、EGGS ‘N THINGS INTERNATIONAL HOLDINGS PTE. LTDを設立。10年に原宿1号店をオープンする。同年、参議院議員選挙で初当選。議員任期満了後は、飲食事業の海外展開や自然エネルギーの事業など精力的に活動中。著書に「すべては一杯のコーヒーから」(新潮社)など。

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