季節の味わい、幸せと健康への願い 「和食の日」特集

 コロナ禍によって、大きく変化した日常。ステイホームで皆が内向きになり、季節の変化に鈍感になってしまってはいないでしょうか。日本の伝統文化である「和食」は、旬の食材を多く使い、季節の移り変わりを楽しむもの。何気ない日常を大切にしたい今だからこそ、和食という文化を通じて心を豊かにしてみませんか。

 

 

インタビュー 和食という文化を次世代に継承する

和食文化国民会議 専務理事 事務局長 田島 寛氏

●基本の「一汁三菜」でバランスの取れた食事を
 コロナ禍の2020年は、健康への意識が高まった一年でした。さらに家で過ごす時間が増えたことで、家庭で料理をする機会が増えました。こうしたことから、「和食」への関心も高まっているようです。

 13年12月に和食はユネスコ無形文化遺産に登録されました。その評価の通り、食事は単にエネルギーを取るための手段ではなく、文化であり、人と人がコミュニケーションを取る日常的な機会を提供します。特に年末年始は和食を食べる機会が増える時期ですが、料亭で食べる懐石料理のような「晴れ」の食事だけが和食というわけではありません。本来の和食は、日常の食卓に並ぶようなごく普通の食事です。

 和食の基本は一汁三菜。肉や魚などの主菜を一品、野菜やキノコ、海藻などをつかった副菜を二品、それにごはんと汁物、 香の物を合わせます。これはPFCバランス(P =たんぱく質、F =脂質、C =炭水化物)の取れた食事として、とても理にかなっている組み合わせです。献立を考えるときにも、この一汁三菜を目安にすると組み立てやすいのです。

 さらに、野菜や海藻などは食物繊維が多く、全体的に脂質が控えめで低カロリーです。また、味噌や納豆といった発酵食品は腸内環境を改善しますし、だしを利かせれば、減塩にもつながります。メタボや血圧、コレステロール値を気にしている方には、まさにうってつけです。

 もちろん、ハンバーグやカレーなどを食べたいときもあるでしょう。和食中心の食事を心がける場合も、あまり難しく考えず、それらも一汁三菜の中に組み込んで、食事のバランスを整えることを考えるといいでしょう。

 

 

●帰省が難しいからこそ故郷の食事を味わう

 今年は帰省をためらわれる方も多いかと思います。お正月に親戚一同が集まり、食事を楽しむ機会が持てないのは残念ですが、そんな今だからこそ、ぜひ自宅で故郷の料理や味つけを再現してみてはどうでしょうか。

 同じ料理でも、各家庭で味つけは微妙に異なります。そうした違いをどのように出しているのか、電話でご実家に話を聞いてみるのもいいかもしれません。帰省できなくても、食を通じてコミュニケーションをとることができます。

 もちろん、行ったことのない土地の、食べたことのない料理づくりにチャレンジしてみるのもいいでしょう。幸い、今はインターネットで全国各地の食材を取り寄せることができますし、郷土料理のレシピもたくさん公開されています。お雑煮にしても、各地方で特色があってバラエティー豊かなので、食べ比べてみるのも楽しそうです。例年とは違うお雑煮にトライしてみると、新鮮な気持ちで一年の始まりを迎えられるかもしれません。

 また、伝統的なおせち料理は田作りや昆布巻き、黒豆など、一品ごとに長寿や子孫繁栄などの想いが込められた縁起物です。そうした意味も考えながら、家族でオリジナルのおせちを作ってみるのも面白いでしょう。

 

 

●全国で行う食育活動「だしで味わう和食の日」

 私たち「和食文化国民会議」では、和食を世界に発信するだけでなく、講演会やセミナーを通じて、広く次世代に和食を継承していくための活動を続けています。特に11月24日の和食の日には「だしで味わう和食の日」と題して、文部科学省、厚生労働省、農林水産省の後援を受け、全国の小中学校、幼稚園や保育園で和食給食を通じて「だし」のおいしさを体験する食育活動を行っています。15年から始まったこの活動は年々参加校が増えており、今年は約1万2400校、280万人が参加の予定です。


 食は文化です。文化は心を豊かにします。コロナ禍という例年とは異なる状態で迎える年末年始ですが、食を通じて、心身ともに健康な毎日を送れるように、ぜひ和食に親しんでみてください。

 

 

和食文化の普及や啓発を目的に、さまざまなイベントを開催

 和食文化国民会議では、和食の普及や啓発を目的に、各種の講演会やセミナーなどを開催しています。2020年11月24日の「和食の日」には、歴史学者の熊倉功夫氏を迎えて、「今に生かす和食(仮)」をテーマにWeb講演会を予定しています。また「和食」がユネスコに無形文化遺産として登録された日にちなみ、12月4日には「全国『和食』連絡会議 第6回交流会『1204 和食セッション』〜次代に繫ぐ和食の集い〜」を開催。全国で「和食」の保護・継承に取り組む方々との交流会イベントで、今年は会場(富士ソフトアキバプラザ〈東京・千代田〉)とインターネット同時配信で開催します。どちらも参加費無料でどなたでも参加できます。

イベント詳細:和食文化国民会議ホームページ
https://washokujapan.jp/

 

 

寄稿 健康効果、文化価値、掘れば掘るほど魅力が湧きだす和食の深さ

日経BP 総合研究所メディカル・ヘルスラボ 客員研究員 西沢 邦浩氏

●世界無形文化遺産の和食は健康面でも優秀
 和食は2013年に世界無形文化遺産に登録されましたが、そのときの申請理由に「栄養バランスに優れた健康的な食生活」、という点を入れています。世界でも長寿な日本ですが、実際に、和食パターンの食生活をしている人の健康度合いはどうなのでしょうか?

 ご飯、みそ汁、海藻、漬物、緑黄色野菜、魚介類、緑茶の摂取量が多く、牛肉・豚肉の摂取量が少なめであることを点数化する「日本食インデックス(JDI8)」という指標があります。約9万3000人の日本人を18~19年間追跡したところ、このスコアが高い人ほど、つまり和食度が高い人ほど、全体の死亡リスクも心血管疾患による死亡リスクも低かったという研究結果が今年7月、「欧州栄養学会誌」という学術誌に掲載されました。

 宮城県に住む65歳以上の約1万4000人を5年間追いかけたら、和食度が高い高齢者ほど、要介護リスクを高める機能障害が起こる率が低かったという研究も2014年に発表されています。

 同じ世界無形文化遺産である地中海食に比べると、和食ではこのような科学的に健康度を評価したデータが少ないことや、だいぶ気を付けられるようになったとはいえ、まだ減塩の進展が必要といった課題はあります。しかし、やはり和食は健康に寄与する因子が多く、世界に誇れる健康的な食事というのは確かだと思います。

 

 前述の日本食インデックスに挙げられている要素以外にも、豆腐や納豆といった多様な大豆製品、かつお節や昆布などのうまみ食材からとるだしをベースにした調理など、語りつくせないほどの健康効果や文化価値を持つ豊かな食品や調理法があります。例えば、うまみは既に、太りにくく味わいが深い食事のカギとしてUMAMIという英語で世界に知れ渡っています。

 

●米国で人気トップ3のサプリメントと和食の間に深い関係が⁈

 一見和食と関係なさそうに思えますが、実はそのパワーをもの語っているような米国の調査データがあるので紹介しましょう。昨年1年間(2019年)に、米国の消費者が「買った」と答えたサプリメントのランキングです(米の調査会社コンシューマーラボ社による「過去1年間に購入したサプリに関する調査」有効回答9782人)。


 その1位はビタミンD、2位はマグネシウム、3位はDHA・EPAなどのω(オメガ)3脂肪酸でした。皆さんはこれらの食品成分を意識してとったことがありますか? もしくは、これらの成分を豊富に含むことを前面に押し出して食品を売ろうとしたことがありますか? ω3脂肪酸の価値はだいぶ浸透してきましたが、1位のビタミンD、2位のマグネシウムは、「どうしてこの2成分が人気なの?」と思われる人も多いかもしれません。


 これらのサプリメントが売れる理由は、免疫や代謝など、健康の維持・防御のための仕組みに欠かせないことを示す豊富なエビデンス(科学的証拠)が次々に登場しているからです。実際、この3成分は、それを摂取した人たちで、ある種の健康リスクが低下したという臨床試験をはじめとする試験結果の報告数とほぼ比例して売り上げが伸びているのです。


 でも実は、どれも日本で暮らす私たちにはなじみ深い食品に多い成分です。つまり、健康維持に欠かせない重要な栄養素なのだけれど、西欧型の食生活では必要な量をとりにくいから、サプリメントで補うというニーズが生じている可能性があるわけです。


 では、この人気3成分を、「和食」という視点で見てみましょう。
 1位のビタミンD、3位のω3脂肪酸はどちらも、魚類が最も効率的にとれる食品です。ビタミンDはシラス、イワシ、サケといった魚に多く、ω3はマグロやブリ、サンマなどに多い。つまり、旬の魚をおかずの主役にしていれば不足は起きにくい。2位のマグネシウムは、ヒジキ、ワカメ、ノリといった海藻類や大豆製品などを常食していればしっかり摂取することが可能。豆腐を固めるにがりはそもそも主成分がマグネシウムです。


 日本人の私たちはその価値に無自覚な面もありますが、和食の中心食材である魚や海藻、大豆製品は、西欧の人たちが自分の健康を守るためにサプリで補おうとしている重要な栄養素をしっかり含んでいるのです。

 

世界の植物性食品志向も和食が支持される追い風に

 SDGsの潮流や、健康志向が強まる中、世界で植物性食品が注目されています。動物性のたんぱく質を植物性のたんぱく質、つまり〝植物肉〟に置き換えようという動きです。現代の日常的な和食パターンが固まってきた1960年ごろ、日本人はたんぱく質のほぼ半分を穀物や豆、野菜といった植物性食品からとっていました。2000年代になると肉類の摂取量が増えたこともあり、その割合は約3割強にまで下がっていきますが、そもそも日本人のたんぱく質源として、長い間、植物性食品の比重は大きかったのです。


 今年7月、「英国医学会誌」という著名な医学雑誌に、動物性たんぱく質、植物性たんぱく質の摂取量と心血管疾患、およびがん、そしてすべての原因による死亡リスクの関係を世界約44万人分のデータをもとに分析した研究が発表されました。そして、植物性たんぱく質からのエネルギー摂取量を3%増やしただけで、全体の死亡リスクが約5%低下するという結果が出て、動物性たんぱく質の植物性たんぱく質への置き換えを薦めています。


 食事の一部を植物性食品に置き換えるだけで、環境負荷が減るだけでなく、世界の健康度まで上がるかもしれないのです。約3割をたんぱく質が占める高たんぱく豆である大豆を使った食品は、こんな視点で見ても重要な役割を担えるのではないでしょうか。


 和食には、その価値の本領が浸透しているとはいえない日本市場はもちろん、世界の市場にもアピールできる無限の可能性が秘められていると思います。