自粛から生まれた 家飲みの新たなスタイル 「巣ごもり」でも楽しく オンライン飲み会

新型コロナウイルスの流行による外出自粛は、飲食の消費に大きな影響を与えた。人との接触が制限されるなかで、急速に普及したのが「オンライン飲み会」だ。リアルの代替にとどまらない、新たな家飲みのあり方とは。

 

制限があるなかでいかに楽しめるか  北村 森氏(商品ジャーナリスト)

 緊急事態宣言を受けての自粛期間、消費者は「人と会って食事をしたい」「自分の好きなお店に行きたい」という欲求を抑え過ごしていました。そのなかでも、消費者は少しでも生活の質を向上させようとする、良い意味でのしたたかさを持っていました。これは飲食にかかわらず、あらゆる商品領域にいえることかもしれませんが、「今置かれた状況から、どのようにプラスに転じるか」ということを常に念頭に動く、消費者のポジティブさが改めて浮き彫りになったと言えるでしょう。

 外出自粛のなかで急速に普及したオンライン飲み会に対しても、消費者は「仕方がないからオンライン飲み会」ということではなく、「オンライン飲み会だから楽しく」という姿勢で捉えています。私も実際にオンライン飲み会を何度か体験しましたが、身づくろいをする必要がなく、自分の好きなペースで飲めて、終わったらすぐに寝ることもできる、とメリットを多く感じました。制限があるなかで、いかに楽しめるかを考える消費者の強さというものが、オンライン飲み会のあり方に表れていると思います。

 このような状況のなか、それぞれの領域で、家飲みやオンライン飲み会を彩ってくれるものが活発に動きました。営業自粛を余儀なくされた飲食店では、オンライン飲み会で映えるセットをテイクアウトで販売しているお店もありました。例えばあるお店では、トラフグのアラを鍋にできるように、小鍋で炊くだけで手軽に作ることができるという、オンライン飲み会で盛り上がりそうな食材をわずか数百円という価格で販売していました。

 同じようなことが、お酒の販売でも起こりました。飲食店向けのワインショップが、自粛期間限定でシニアソムリエがセレクトしたワインをセット販売するサービスを始めたり、ボトルで買うには高価なお酒を量り売り販売してくれる「角打ちテイクアウト」を始める酒屋も登場しました。各店舗にとっては決して高い利益が見込める工夫ばかりではなかったと思われます。しかし、消費者は制限のある生活を少しでも楽しくすることを後押ししてくれる「プロだからこそ」の提案に心動かされました。

 

 

アフターコロナでも家飲み習慣は残る

 巣ごもりのなかで、食材や飲料だけでなく、調理機器が売れていることも非常に興味深いところです。自粛期間中は知事の要請に従い、スーパーで買い物する頻度を3~4日に一度に減らした方が多いと思います。そうなると事前に1週間の半分のメニューを組み立てなければならない。数日分のメニューをトータル費用のことも意識しながら組み立てるという作業はとても疲れるものです。そのなかで、普段と目先の変わったメニューや、料理を作り慣れてない方でも簡単にできるレシピが注目を集めています。外出自粛のなかでキッチン小物や調理機器をそろえる、またそれを使って料理をするスキルが上がり、家で飲む機会が増えたことが意味するのは、コロナ禍がひと段落した後でもその習慣は確実に残るということです。

 

 今、段階的に自粛要請が解かれているなかで、一定数は外食に回帰すると思われますが、家飲みやオンライン飲み会を続ける消費者も少なからずいると予想されます。つまりアフターコロナは選択肢が広がるわけです。そのなかでリアルとオンライン飲み会とを区別しながらの商品設計や売り場の訴求もできます。その意味では今後、消費者の潜在的欲求を掘り起こし、先回りできるかどうか、ということが重要になってくるでしょう。

 

 

日経POSデータで見る家飲み消費 自粛により裾野広がる酒類の需要

 2020年の上半期は、緊急事態宣言による飲食店の営業自粛を受け、酒類の小売店での消費は堅調な伸びを見せた。販売金額のピークが来る時期は例年ゴールデンウイークに入る4月末から5月初めだが、今年はそれ以降も底堅い消費を見せ、前年同期比で最も高い値を出したのは5月の4〜10日週だった。

 各ジャンルを見ると、近年品質の向上が進む発泡酒、「ストロング系」や「レモンサワー」が人気のRTD(=Ready to drink、蓋を開ければすぐに飲めるアルコール飲料)を含むカクテルドリンク類は安定した伸びを見せた。外出自粛が始まったタイミングと同じくして焼酎、ワイン、ウイスキー・ブランデー類やリキュール、スピリッツが販売を伸ばし、近年販売が伸び悩むビールと日本酒も、自粛期間でプラスに転じた。普段は外食で飲酒を楽しんでいた消費層が家飲みに転じたことで、ニーズの裾野が広がったかたちだ。

 

 6月現在、緊急事態宣言は解除されたものの、外出自粛はいまだに続いている。長期にわたる巣ごもりのなかで、家飲みが習慣となっている消費者も多い。今後は幅広い需要の取り込みが重要となるだろう。

 

 

 

「会えない人」との飲み会にニーズ オンラインならではの魅力を訴求

 外出自粛のなかで急速に普及したオンライン飲み会。主にWeb会議用のツールが用いられるが、オンライン飲み会に特化したツールもある。それが今年3月に提供を開始した『たくのむ』だ。サービスを提供するWeb運営の1010(東京・新宿)に、利用者の傾向やニーズ、今後の展望を聞いた。

 

――『たくのむ』利用者の傾向やニーズについて

 オンライン飲み会はさまざまなWeb会議用のツールを使って楽しまれているが、『たくのむ』はオンライン飲み会に特化している。本サービスの特徴は、オンライン飲み会を開催するときの会員登録やアプリのインストールが不要で、操作もシンプルなことから誰でも気軽に利用できること。実際に、今年3月のローンチから5月10日時点での累計利用者が190万人を突破、75万件ものオンライン飲み会が開催され、利用者の幅も広い。傾向としては、年齢層は20〜30代の利用者が多く、金曜日は男性の飲み会、休日やランチ帯は女性の利用が多い。いつもの飲み友達に限らず、遠方の同級生、子育て中のママ友、ネット上の知人といった「会えない人」との飲み会にニーズがある。

 

 

 

 

――サービスを提供する企業として、今後のオンライン飲み会の展望とは?

 オンライン飲み会には、写真や動画を共有しながら話せることなど、単なる代替ではない独自の魅力がある。『たくのむ』では、ユーザーがオンライン上で仮想の店舗をオープンし、オンライン飲み会形式で有料のイベントを開催できる「お店プラン」を開始した。これは飲食店などの事業主だけでなく、タレントや歌手、インフルエンサーといった個人ユーザーも店舗をオープンすることができる。決済など運営に必要な機能を完備することで、ワンストップで簡単なイベントの運営が可能だ。今後もオンラインならではの機能を順次追加していく。コロナ禍で普及したオンライン飲み会はコロナ後も定着し、逆にオフラインの飲み会は特別化されると考えている。