ロジスティクス特集 ウィズコロナ時代への対応を視野に入れた物流DXの推進が急務に

 新型コロナウイルス感染症は様々な分野における経済活動に多大な影響を及ぼしている。そうした状況下、サプライチェーンの中核を担うロジスティクス業界はどう対応し、どう変化しているのか。その重要なキーワードの1つといえるDX(デジタルトランスフォーメーション)について探ってみた。

 

 

物流MaaSの実現に向けた経済産業省の取り組み

 コロナ禍の下、社会のデジタル化が進展しテレワークや地方居住などビジネススタイルにも大きな変化が生じている。流通業にとって特に影響が大きいのが、ステイホームの時間が増え、ネットショッピングなどの電子商取引が急激に拡大したことだ。中でも、慢性的な需要過多や人手不足などに悩むロジスティクス業界は、その悪化にますます拍車がかかっている状況で、それを解決するためにも、物流DXの取り組みが急がれるところだ。

 そうした中、経済産業省は物流分野における新しいモビリティサービス(物流MaaS)の実現に向けた取り組みを実施する事業者を、「①トラックデータ連携の仕組み確立」「②見える化・混載による輸配送効率化」「③電動商用車活用・エネルギーマネジメントに係る検証」という3つの方向性で募集。今年7月、「荷主・運送事業者等が抱える課題に対し、日本版FMS標準(車両運行管理に必要となるトラックデータの標準仕様)の活用が期待できるユースケースを検討し、複数商用車メーカーのトラックデータを連携する仕組みの検討等を行う」「深度センサーによる庫内の荷物量や空きスペースの見える化、配送計画ルート上の積載効率変化の見える化により、輸配送効率化の検討を行う」「車両と積荷の位置情報等の連携により積載効率向上を図るとともに、保険会社等と連携し、整備・運行記録等を用いた運行品質評価モデルの策定及び検証を行う」などを実施する6事業者を選定した。

 

 

国土交通省では次期総合物流施策大綱策定を協議中

 国土交通省は今年7月から、次期総合物流施策大綱策定を協議する「2020年代の総合物流施策大綱に関する検討会」(根本敏則座長=敬愛大学教授)をスタート。ウィズコロナ時代や頻発する自然災害への対応を視野に入れた物流改善施策としてDXの推進が急務であることを示している。10月5日に行われた第4回会合では、各委員から以下のような提言があった。

 「デジタル化の推進は物流事業者だけでは実現が難しく、メーカーや小売、卸との緊密な連携が必要である」「物流産業のデジタル化推進のためには、荷主産業と物流産業とのインターフェイスを既に活用している国際標準に合わせる必要がある」「業種を超えた情報プラットフォームの構築のため、サプライチェーンを最適化する共通情報基盤の整備が必要」などだ。

 

 また、業種横断の連携促進に向けた標準化については、「物流に関する様々なデータ基盤の相互連携を含めた、データ共有のグランドデザインの明確化が必須」「小売店が扱う商品のうち、特に食品領域の規格・表示・荷姿の標準化推進を図るとともに、ロボットの普及を加速させる」などが挙がった。シェアリングについては「各事業者が競争領域と非競争領域を見極めることが重要であり、非競争領域の物流サービスをシェアリングすることで物流業界全体の最適化を図ることができる」などが提言された。商慣習・働き方改革・持続可能な物流の実現については「トラックドライバー不足への対応などに有効な、車両総重量31トンの大型トラック(単車)開発や、燃費向上や電動化に対応するためのバッテリー、パレットの軽量化」「女性や高齢者が活躍できる環境整備等、SDGsの視点から物流の社会課題を解決する」「トラックは往復とも満載に近い状態にした上で、ダブル連結トラックや鉄道輸送、RORO船輸送も組み合わせて物を運ぶという発想が必要」などが挙がった。さらにその他として、「特にラストワンマイル対策が必要な地域では、少量貨物有償運送の許可申請の頻度を減らす等、地域社会における物流の円滑化・効率化のための規制緩和を行う」「リカレント教育を含む更なる育成プログラムの整備など、デジタル人材育成強化が必要」などの考えも示された。

 同会合は第7回まで行われ、年内に提言を取りまとめた総合物流施策大綱を策定し、来年3月までに閣議決定する予定だ。

 

 

来年度予算概算要求でも見えてくる物流DX推進の重要性

 国交省は総合物流施策大綱策定と並行し、今年9月に災害・感染症対策と交通・物流分野のDX推進などを柱とする2021年度予算概算要求の基本方針を発表した。そのうち物流関連では、トラック輸送と空港・港湾等の主要な物流拠点との接続など「効率的な物流ネットワークの強化」のために3999億円を要求。物流生産性向上の推進については、モーダルシフトなど持続可能な物流体系構築のための支援事業や、貨客混載による輸送や中継輸送を活用したBtoB輸送モデルの実証事業、地域コミュニティや配送事業者等が連携し置き配や宅配ボックスを活用するBtoC配送モデルの実証事業などの推進のために、20年度比4・5倍の2億2900万円を要求した。その他、シームレスな国際物流システムの構築や国際標準化を推進するために1600万円、倉庫内の遊休スペースをマッチングさせる倉庫シェアリングの検討など物流施設の有効活用を推進するために新規で1500万円、非対面・非接触型の物流システムを早期に確立するため、伝票の電子化等を実証する「検品に関する流通データのデジタル化」にも新規で3000万円を要求した。

 大きな変革期を迎えているロジスティクス業界。国の施策への期待とともに、日本ならではの新たなビジネスモデルの登場も期待されるところだ。

 

 

10年後のロジスティクスのユートピアモデルとは

 日本ロジスティクスシステム協会は今年1月、10年後のロジスティクスのユートピアとディストピアを描いた「ロジスティクスコンセプト2030」を発表した(全体像は図表の通り)。

 まず10年後への「提言」として、ユートピアモデルを実現するための7つの方法を提示。ユートピアモデルとは、「現時点ではデジタル化が出来ていない実体流(モノの流れ)を扱うが故、どうしてもコストにこだわらざるを得ない物流分野においても、10年後にはデジタル化や人工知能などの情報技術が飛躍的に発展し、その恩恵を受けたオープンなプラットフォームを基盤とする全体最適のシステムが新たな産業部門を形成している」とした上で、「これはデジタルコネクトで目指す次の産業と社会の姿。この社会を築くためには(広義の)システムの標準化とそれに配慮した適切な投資が必要」と解説。続く「ユートピア編」で、現在の日本の物流課題と産業構造の変容を踏まえたTO BE(あるべき姿)として、未来の物流モデルとそれを支えるビジネスモデル、その社会実装を描き、さらに「ディストピア編」で、AS IS(すう勢の姿)を象徴する事象として日本の営業用トラック輸送の未来を描いている。なお、ユートピアの実現に向けて直ちに取り組むべきこととして、シェアリングをクロスインダストリー(業種間)で行うために、デジタル化とソフト・ハードや業務のルール化と標準化が必要不可欠であることを強調している。

 

 解説:ロジスティクスコンセプト2030                   

 ⇒ https://www1.logistics.or.jp/news/detail.html?itemid=348&dispmid=703

 

 このコンセプトはコロナ禍が本格化する前にまとめられたものだが、6月に協会が行ったオンラインセミナー「新型コロナウイルス対策を契機として変革すべきロジスティクスとは」では、ユートピアモデルが紹介された上で「コロナ禍で1度成長が鈍化したとしても、ここで一気にジャンプアップすることができる」という考えが示された。またその裏付けとして、コロナ禍で実現した電子化や柔軟な納期調整などのDX例や、ドライバー不足でも事業を継続できるよう尽力した取り組みなども紹介された。