市場の成長が加速するプレミアムオイル ~使い方の提案や細やかな情報提供でトライアルの獲得を~

 汎用油に対し、健康面や美容面で付加価値のあるオイル、いわゆるプレミアムオイルが、コロナ禍での内食需要の拡大に伴い存在感を増している。各メーカーによる、使用シーンを広げた新たな提案や、健康効果についての分かりやすい訴求などで、さらなる市場拡大が見込まれている。

 

使い方の新たな提案 広がる商品ラインアップ

 かけるオイルなど生食用途や、オイルで味付けするような調味料としての使い方など、各メーカーによって新たな提案が進んでいる。これは、オリーブオイルが一般家庭に着実に浸透したことにより、オイル全般に対するポジティブな捉え方が広がっている証拠とも言えるだろう。家庭用オイル市場はオリーブオイル、キャノーラ油、ごま油の3本柱だったが、アマニ油、えごま油、MCTオイルなどの存在感が高まり、さらなる成長が期待されている。

 

 特にアマニ油は、ブームとなった2015年度をピークに市場は一旦縮小に向かったが含有されるオメガ3脂肪酸という成分が幅広い層の消費者に認知され、ここ1、2年で市場が盛り返している。味噌汁などに加えるだけで栄養が取れる手軽さも、需要が広がった要因の1つだ。

 

 

情報提供強化で健康志向に訴求

 消費者の健康志向の高まりに応えるためにも、各商品の成分や健康効果の伝え方は重要なポイントになるだろう。特に植物油は、えごま油やアマニ油などのオメガ3系(αリノレン酸)、オリーブオイルなどのオメガ9系(オレイン酸)、MCTオイルの中鎖脂肪酸など、脂肪酸の種類による分類があり、健康効果や加熱の向き不向きが異なる。各社が情報提供に力を入れた結果、このような基本的な知識は消費者に浸透しつつあり、工夫次第で定着していくだろう。

 

 市場が盛り返しているアマニ油は、手軽さを積極的に押し出した点が功を奏した様子だ。ドレッシング状にしたものや、なたね油やこめ油とブレンドして加熱調理に適するようにしたものが登場するなど、使いやすさが格段に増している。さらに、これまで他のオイルに比べて高価さから敬遠されてきた傾向があったが、ボトルの小型化により手に取りやすい価格設定の商品が増えている。

 

 

今秋、各社が注力 えごま油市場

 アマニ油と同じくオメガ3脂肪酸が豊富なえごま油は、これまでアマニ油に先行されていたが、今秋はフレッシュキープボトルやトライアル向け小容量タイプ、マヨネーズタイプなど、新しいラインアップが拡充されている。

 

 せっかく購入しても、消費しきるまでに時間がかかると油が酸化してしまうリスクがあるので、ボトルに鮮度を保てる工夫が施されていることは、購入のハードルを大きく下げる効果が高い。既にオイルを酸化から守る二重構造の容器が主流となっているが、さらに高機能の容器の開発も期待される。

 また、かけて使うニーズや単身世帯の増加に対応した、少量ずつ調節して注げるようにした小型容器も、消費者の支持を得ているようだ。

 かけるオイルという概念が定着されつつある市場で、えごま油がどんな追い上げを見せるのか、注目が集まっている。

 

 

 

 

オリーブオイル市場は拡大を続けながら成熟期に ~味わい・用途など、差別化進む~

 この10年で輸入が2倍に拡大したデータもあるほど、健康志向の高まりを背景に 一 層人気を集めているオリーブオイル。 ますます豊富になった商品ラインアップやその活用方法について、 管理栄養士・食生活アドバイザーの堀知佐子氏に伺った。

 

 

豊富な商品から香りや味わいでセレクト

 独特の香りと風味が人気のオリーブオイルだが、消費者は豊富なラインアップからどのように選択すべきなのだろうか。味の違いは主にオリーブの品種によるもので、さらに同じ品種でも、産地や収穫時期によって味や香りが異なってくる。

 フランス料理店のオーナーでもある堀氏は、「少し値の張るものは加熱しないほうがおいしいので、例えばチーズには辛さのあるものやナッツのような香りのものを、生のサラダには軽めのオリーブオイルを合わせると相性がいいです。エキストラバージンで、香りも鮮度もいいものは、オリーブのジュースと言われるくらいおいしいので、ぜひそのまま味わってほしいです」とアドバイスする。

 

 このように、料理や好みに合わせてセレクトできるほど日常的な商品に成長した背景について、堀氏は「和食の文化的な側面によるところもあるでしょう。柚子や生姜など、香りの物を合わせるというルールがありますよね。そこへオリーブオイルが入ってきて、独特の香りと、その食欲増進効果が、日本人に受け入れられたのではないかと思います。オリーブオイルの本場、地中海食と和食で使われている食材が似ていることも、取り入れやすい理由かもしれません」と語る。

 「オイルは体によくないもの、という誤ったレッテルが、ポジティブなイメージへと変わってきたことも大きいです。オイルを適量取ることは、人間の体にとってとても大切なことだということが、より広く認識されてほしいです」

 

 

日常用と嗜好用との使い分けも

 オリーブオイルの新商品の中には、より「日常使いの調味料」というイメージを醸成するため、商品の特長を分かりやすく表示したものも出てきている。膨大に並ぶ商品の中から消費者に選ばれるために不可欠な工夫だが、堀氏は、オリーブオイルを選ぶのにそこまで難しく考える必要はないと話す。

 

 「どんなにいいものでも、高くて手が出せないと意味がありません。質の高いものが手ごろな価格で入手できるようになったことは、各メーカーの企業努力によると思います。もちろん香りや味わいによって値段の差は出てきますが、それはあくまでも嗜好品としての観点で、オリーブオイル自体の脂肪酸の組成は変わらないんですよ」。日常使い用と、嗜好品用とで、複数の商品を使い分ける消費者も増えていくだろう。

 

 

 

管理栄養士・食生活アドバイザー
堀 知佐子 氏

調理師専門学校の日本料理講師を務めた後、京都の料亭で3年修業、菊の井の事業部立ち上げに携わるなど、飲食業界で幅広く活躍。食品会社や飲食店へのメニューアドバイスやテレビや雑誌等でのレシピ提案を行う。東京・千駄ヶ谷の「ブラッセリー ル・リール」でオーナーシェフを務める。

 

 

ますます高まる健康志向 ~食卓に取り入れたい植物オイル~

一般的なスーパーでも目にするようになったアマニ油やえごま油、そして昨今話題となっているMCTオイルについて、管理栄養士・食生活アドバイザーの堀知佐子氏に伺った。

 

 

体内で作れない必須脂肪酸

 アマニ油やえごま油に含まれる不飽和脂肪酸・オメガ3は、体内で作ることができず不足しがちだと言われている。これらのオイルが注目されたことによって、その現状が知られるようになったわけだが、これまで私たちはどう摂取してきたのだろうか。

 「オメガ3は、EPAやDHAと呼ばれる、いわゆる魚油に多く含まれていますが、今の日本人は生魚の摂取量が減っているために不足しています。EPAやDHAは、焼いたり煮たりすると20%くらい減ってしまうのです。体の中に入ったときにきちんと働くだけの量を取り切ろうとしたら、やはり生のお刺し身で食べるのが一番効果的なのです。たんぱく質やカルシウムも一緒に取れますしね」と堀氏は語る。

 「でもお魚が苦手な方など、どうしてもオメガ3が不足してしまう場合は、アマニ油やえごま油で補っていただくといいと思います」

 

 独特の風味が気になる場合は、ツナ缶やサバ缶などにマヨネーズと一緒に混ぜてサンドイッチにしたり、肉料理やカレーにかけると食べやすくなるという。「お料理はお皿に盛った状態なら、どんなに熱くても80度以上ということはないです。ですから温かいお料理にかけることは、オイルの酸化という意味ではさほど心配がありません」。それぞれの好みに合わせ、工夫して摂取したい。

 

 

エネルギーになりやすいMCTオイル

 一方でMCTオイルは、40年以上も前から医療現場などで広く使われてきた経緯がある。また短時間でエネルギーになるため、アスリートが積極的に取り入れており、美容や健康意識の高い一般人にも注目され始めている。

 「MCTオイルは、ほぼ100%中鎖脂肪酸で構成されています。中鎖脂肪酸とは構成されている炭素数が6〜12個のものを指します。13個以上になると長鎖脂肪酸となり、一般的なオイルや肉・魚などの食品から取るオイルは、多くがこちらに属します。中鎖脂肪酸は、炭素数が少なく短いので、切れて吸収されるの速く、それでエネルギーになるのも速いのです」

 

 MCTオイルはココナツオイルと同様に、ココナツの種子の胚乳から作られるが、そこから中鎖脂肪酸だけを抽出して作られる。ココナツオイルは55% 前後が中鎖脂肪酸、残りは長鎖脂肪酸であるところが異なる。エネルギーになるのに、より時間がかかるのだ。

 様々な健康効果を持つ植物オイルだが、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」による適量は、小さじ1杯程度。自身に合うオイルを選び適度な摂取を心掛け、オイルと長く良い関係を築くことが理想的だろう。