健康食品通販の「やずや」がCRM基幹システムの全容を公開 ~世界のネット販売で拡大が進むGS1標準の活用へ~

 競争環境がますます厳しくなるネット通販市場。参入者が多い一方、勝ち組と負け組の差も大きくなっている。規模が大きくなるとその分リスクも増え、わずかなミスが致命傷になりかねない。
 19年11月14日、東京都港区の明治記念館で開催されたセミナー「GS1標準によるオムニチャネル環境の業務革新2019」では、健康食品通販の「やずや」を支えるCRM基幹システムの開発担当者が、年商100億の通販会社を実現するための秘策を公開。さらに、アパレル物流業界のキーマンが、テクノロジーがもたらす新しい小売を紹介し、「攻めの物流」と題して物流の未来を語った。

 

 

通販会社が生き残るヒントは人工衛星(ロケット)にあり

東北産のにんにくを使った「にんにく卵黄」や雑穀米の「発芽十六雑穀」などで知られる通販事業者の株式会社やずや。そのCRM基幹システムや顧客分析診断システムの開発、運用を手がけるのが株式会社未来館だ。基調講演の第一部では同社取締役社長の西野博道氏が「ロケットマーケティングを支えるやずやの基幹システムの全容」と題して語った。

 「通販業界で年商100億円の会社を作るためにはどうすればよいか?」と質問を投げかけた西野氏は、1年間に2万円分の商品を買う顧客が50万人残っている状態(=100億円)を作ればいいという。ところが、ほとんどの通販会社はそれを達成できず、生存競争から取り残されていく。

 そもそも通販ビジネスのスタートは、赤字となるのが常識。それは、顧客に認知をしてもらい、実際の購入者になるまでに大量の広告費をつぎ込まなければならないからだ。通販事業を興した場合、年商1億を得るために使う広告費は最初の1年半で1億円。軌道に乗れば年商は2年目で20億、3年目で30億、5年目で100億と、急激に伸びていく。西野氏はそれを人工衛星に例えて「ロケットマーケティング」と呼んでいる。

 「人工衛星は大気圏から出るまでに大量の燃料を使って宇宙空間に勢いよく飛び出します。その後も相応の燃料を使いながら地球の周りを飛び続けます。通販事業も同様で、100億の年商を獲得するためには5年で50億円レベルの大量の燃料(広告費)を使って年商100億に必要となる50万人の顧客を集めます。その後の広告費は下げられるものの、飛び続けるためには顧客をしっかりフォローし、離脱させない関係性を築くことが重要です」(西野氏)

 西野氏によると、顧客離脱防止法は初回顧客の防止、稼働顧客(リピーター)の離脱防止、被稼働顧客の復活の3つがあり、この3つで2年後の残存率70~80%が維持できるという。それを実現するためには、「商品を買って欲しい」ではなく、「人生のニーズ」を訴え続けることが重要となる。なぜなら、顧客のほとんどは買う瞬間の理由が明確でなく、無意識に買っているからだ。そのため、離脱しそうな顧客の受け皿を作り、元に戻すことを繰り返すことで稼働顧客が累積し、初めて売上が上がっていくという。ただし、月次売上だけを見ていても年商の減少には気付きにくい。それを解決するためには、顧客の減少が新規獲得、既存維持、離脱復活のどの段階にあるのかを見極めることが重要だ。

 「顧客維持率が70~90%なら、新規客を集客していけば5年で年商100億は実現します。新規の集客を止めても3年間は売上が増加するでしょう。反対に顧客維持率が45~60%なら広告費を使って新規顧客を獲得しても5年で100億はほど遠い数字。さらに新規の集客をストップすると売上は一気に下がり、資金は底をつきます」(西野氏)

 通販業界の実態を見ると、新規顧客を獲得しても稼働顧客が増えないことが多くの事業者の課題となっている。初回半額キャンペーンの実施、定期コースへの強引な誘導、回転数の削減などは結果として顧客維持率の低下を招く。そこでやずやでは、顧客データから顧客の状態や問題の原因を分析する「顧客分析診断システムMIRAI」を提供している。

 「分析の標準化を目指したシステムにより、特別な技術がなくても現在の業績が誰でもひとめでわかります。顧客管理に必要な監視、分析、予測の機能を自動で実行し、問題があれば警告を発することが可能です」(西野氏)

 もうひとつは、通販に欠かせないCRM基幹システムだ。未来館では、やずやが40年の通信販売事業で培ってきたノウハウを搭載したCRMシステムを開発し、どの会社でも汎用的に使える標準的な形で提供している。西野氏は「やずやのノウハウをおすそ分けする気持ちで、年商30億円から100億円の事業者向けのCRMシステムを開発しました。縁のできたお客様と5年、10年、20年と長い関係を築くために利用してください」と語って講演を終えた。

 

 

ファッション×テクノロジーがもたらす新しい小売のあり方とは

 続いて、基調講演の第二部として物流コンサルを手がける株式会社リンクス代表取締役社長の小橋重信氏が登壇し、「物流の未来―攻めの物流・守りの物流―」と題してアパレル業界の現状を解説した。

 「物流」というと「コスト」と捉えられがちだが、小橋氏によれば、物流は売上と原価に次ぐ第3の収益源だという。物流費は物流倉庫の中だけでは決まらないため、サプライチェーンから根本的に見直す必要があり、結果としてコスト削減や収益の増加につながるというのが小橋氏の主張だ。ファッション業界でサプライチェーンを上手く回しているベンチマークとして小橋氏はスペインのブランド「ZARA(ザラ)」を挙げた。

 「ZARAの特徴はスピード重視。安価な船便で商品をまとめて運ぶより、高価な空輸で週に2回、スペインの本社から全世界の店舗に届けています。企画から生産まで6カ月が常識のアパレル業界において、ZARAはわずか4週間。需要予測に基づいて企画し、リードタイムを短縮してブレを下げる戦略です。ですから各国に物流倉庫は持ちません。その結果、正価販売率も通常アパレルより高く、高い利益率を実現しています」(小橋氏)

 対して日本のファッション業界は、国内市場の縮小、百貨店業界の衰退、消費者需要や購買行動の変化などに苦しんでいる。一方、世界を見れば、デジタル技術を駆使してBtoCの新たなビジネスモデルで躍進しているブランドが多数隆盛を極めている。サブスクリプションサービスは、顧客の好みに合わせてカスタイマイズする「サブスク3.0」へと進化。消費者の購買行動もフリマアプリの全盛により、検索してから行動、再販売を前提とした購買へと変化している。

 「80年代のブランド・アパレルの時代から、00年代以降はマルチチャネル・アパレルの時代となりました。オムニチャネル、DtoC、サブスクリプション、シェアリング、OmOによって消費者のニーズをどう反映させるかがカギとなります」(小橋氏)

 こうした変化を踏まえて小橋氏は、物流もこれまでの「守り=コスト」から「攻め=戦略」にシフトすることが重要だと指摘。従来は「商物分離」として、商流と物流を分けて考えてきたが、テクノロジーの進化で物流が複雑化・高度化した現代は「商物融合」として商流と物流を一緒に考える必要があると説く。オムニチャネルの時代には、カートシステムだけでなく、基幹システム、WMS、CRM、POSシステムなどのバックヤードシステムも重要だ。リアル店舗では日次のバッチ処理が中心だったが、ECの世界はリアルタイムに情報が確認できなければならない。

 これからの物流は、物流の多様化・複雑化、小口配送の増加、労働人口の減少などが進む中で、「宅配クライシス」への対応が求められる。避けて通れないのがロボテックス・IoT・AIなどのテクノロジーの進化だ。そこでカギになるのが「標準化」だと小橋氏は言う。

 「特に日本はロジスティクスにおける標準化が遅れ、1950年から60年代の荷役の自動化で止まっている状態です。現場の改善力に優れた日本は、顧客のニーズに合わせてカスタマイズをしてきました。その結果、現代のロジスティクスの自動化の流れに遅れてしまったのです。日本は一刻も早くカスタム型から標準型に転換し、自動化によって物流事業者の作業品質を共通化していくことが真の攻めの物流につながります」(小橋氏)

 最後に小橋氏は、最近話題の「フィジカルインターネット」に触れた。フィジカルインターネットとは、共通の規格によってインターネット上で情報が動くのと同じように、物流施設やトラックなどの物理的な機能を共通化し、効率的にモノを運ぶ物流のことだ。日本の物流業界も、配送会社の垣根を越えてモノをどう届けるかを考える時代に来ていると小橋氏は指摘。「標準化に遅れていくと、巨額の投資を武器に自社での配送網を使ってフィジカルインターネットを実現しようとしているAmazonにすべてをかっさらわれてしまうかもしれません。そろそろ本当の競争とは何かを考えてください」と訴えて講演を終えた。

 

 

GTINの再利用が不可になり、将来にわたりユニークさの担保が実現

 続いて、「世界のネット販売で利用拡大するGS1標準」と題して、流通システム開発センター 主任研究員の市原栄樹氏が解説した。

 GS1コードについては過去の講演でもたびたび言及してきたが、19年のトピックはGTIN(JANコード)の再利用が2019年1月から不可になったことだ。従来は商品廃番後、一定期間以上が経過し、流通在庫がなければ再利用が可能だった。しかし、結果としてPOS販売記録の間違いが起きたり、ブランドやサイトの信用力が低下したりしていた。今回、再利用が不可になることで将来にわたりGTINのユニークさが担保されることになる。市原氏は「これにより中古品もGTINで管理が可能になり、ビンテージ品のネット販売も実現します」と強調した。

 その他、市原氏は20年に向けたGS1の戦略としてオムニチャネル取引の拡大を挙げ、GS1モバイル関係の標準化が進んでいることも解説した。最後に市原氏は「標準の活動には終わりはありません。日本企業のみなさんと“ONE TEAM”で標準化に取り組んでいきたいと思います」と呼びかけた。

 

 

リコールのリスクを最小化するための秘策はGS1コードの活用にあり

 講演の最後は、「GS1標準を利用した製品リコールの対応」と題してTDNインターナショル株式会社 社長の渡辺吉明氏がリコールのリスク対応について語った。

 リコールは出荷数や売上が上がるほど増えるのが常識だ。異常の発見が遅れると損害が急増し、売上・収益は低下する。市場監視を怠ると事故が多発し、信用は一瞬にして失われる。賢い経営判断はクレームや故障が発生した段階で異常に気付くことだ。さらに各ロットの出荷段階で出荷後の監視方法を確立していれば最悪の事態は防止できると渡辺氏は言う。

 「製品所有者とのコミュニケーションで速やかに回収・廃棄して残存リスクをなくし、早期の原因究明と改善でサプライチェーン全体の信頼関係は深まります。つまり、リスクコミュニケーションがこの先の繁栄を支えるカギとなるのです」(渡辺氏)

 ITの時代、出荷後のマーケット監視や不良ロットの特定において重要になるのがGTIN(JANコード)だ。製品を通してユーザーとコミュニケーションを取り、メーカーが購入者やユーサーの情報を得ることができれば安全性を重視した適正なものづくりとコスト・納期が実現し、小売事業者は安全性を重視した商品を選ぶようになる。結果として粗悪品の排除につながり、顧客満足につながるという流れだ。

 TDNインターナショルでは、こうしたリコールの課題解決に向け、GS1QRコードで作成した2次元バーコードを製品に貼り付け、スマートフォンのカメラで読み取ることで、Webサイト上に登録した商品の情報を表示するシステム「Scodt(スコドット)」を14年より提供している(現在はクラウド版のscodt cloudに進化)。メーカーにとっては商品安全情報を共有するだけでなく、グローバルでトレーサビリティーを確保することも可能になる。GS1QRコードはすでにリコール品の流入阻止の自動化や、ECでの不良品発見にも活用されているという。最後に渡辺氏は「一般社団法人PL研究学会の製品リコール研究部会でも検討委員会を立ち上げ、製品リコールに関する本格的な研究を産学連携で進めていきます」と語って講演を締めくくった。

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