日経MJフォーラム 大規模ECの課題 ~成長を持続する仕組み作りとは~

2019.7.09

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 大規模電子商取引(EC)を構築するにはシステム構築や他部門との連携が必須だ。業務や事業発展に合わせていかに仕組み作りを進めるか。日本経済新聞社は4月中旬、こうした課題を考えるフォーラムを都内で開催。EC事業の成長を持続させるためのソリューションや事例を紹介した。

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オープニングセッション

今後の大規模Eコマースに必要なファクターとは?
5つの重要要素をご紹介

JECCICA ジャパンEコマースコンサルタント協会
代表理事
川連 一豊 氏


スピード感重視し顧客満足を追求

 日本のEC流通総額は2024年には26兆円規模まで伸びるという。訪日外国人も急増し、越境EC市場も盛り上がってきた。EC戦略で求められるのはデータ、エンゲージメント、オムニチャネル、スピード、アクションだ。

 まず個人の購入理由のデータをどう取るか。顧客とのつながりを重視したエンゲージメントでは、カスタマージャーニーの作成が有効だ。あらゆる方法で顧客と接点を持つオムニチャネルも大前提になる。


 次にスピード感。インフラは上流から構築しセキュリティーも当然必要になる。アクションの起こし方では個別対応が大事。購入理由を知るために最終画面にアンケートを設けるなどの方法がある。

 

 売れ筋商品に対しては特集ページなどの工夫も必要だ。カスタマージャーニーマップは作った後に必ず検証し、タッチポイント修正などの改善を行い、転換率を見ることが重要だ。


 データを取ることで同時購入率や購入頻度など顧客の行動が可視化されるが、実店舗にはデータをみると顧客の行動を推測できる販売員もいる。「商品軸」「手軽軸」「密着軸」に分けた差別化もできるが、ECでの人工知能(AI)利用はまだ先だろう。理由は密着軸にあたる接客が大事だからだ。経営資源は人・モノ・お金。最も差別化しやすいのが人だ。 


 オムニチャネル構築には、テクノロジー、組織、ゴールの3要素がポイントになる。いかに障壁を減らし取り組むか。次世代通信規格「5G」が普及すればインフラを意識せずに済むかもしれないが、あと3~4年はかかるだろう。それまではデータをどう取るかに注力すべきだ。スピードを重視し顧客に満足してもらうことが肝要だ。

 

セッション1 [EC構築]

大規模ECサイト構築における留意点
〜ユーザ事例からみる継続成長のポイントを紹介〜

コマースニジュウイチ 

ECインテグレーション事業部 シニアディレクタ
小山 守弘 氏

 


数年先を予測しEC構築

 当社は自社開発パッケージをベースにECサイトを構築している。ECパッケージはノンカスタマイズ志向とカスタマイズ志向に分けられるが、大規模ECには機能を拡張しやすいカスタマイズ志向が適す。

 

 ユーザー事例の一つに会員数870万人のアパレル企業がある。2015年にEC強化、その後オムニチャネル対応、ポイントプログラム共通化などに着手し、ここ1年で会員数が170万人以上増えた。

 

 追加した機能には過去に購入した商品との比較表示や顧客の身長に合うコーディネート提案などがあり、顧客の視点に立った改善が売り上げ増につながった。

 

 販売員の投稿システム導入や在庫一元化、会員ポイント統合機能などオムニチャネル推進を手がけた例もある。実店舗販売員が投稿したコーディネート経由の売り上げ比率はEC全体の30%を超え、販売員のモチベーション向上につながっている。このほか、個別管理していたECサイトとコールセンターを同一システム内に統合、受注処理などの一括管理が可能なシステムを導入し成功した化粧品会社の例もある。

 

 ECの継続成長には、業務要件の提示や優先順位づけが重要だ。要件の具体的な整理方法としては、EC専業会社や同業他社の先行事例に学ぶこと、テンプレート活用などがある。

 

 システム連携を見込んだ構成図を作成しシステムを選定することも大事だ。セールの際のアクセス集中対策としては、3年先までの会員数・時間当たり注文数などの予測値を作成し、性能を高める方法をベンダーに確認することも必要だ。


 当社が提供するセルサイドソリューションは、他のシステムとも柔軟な連携が可能で、カスタマイズ効率を高められる。

 

セッション2 [マーケティングオートメーション]

持続的に拡大していくためのシナリオコミュニケーション
〜顧客との“ちょうどいい”関係を支える大規模対応MA〜

スプリームシステム 

営業部 部長

沖野 聖史 氏

 

 

複数機能ミックスし戦略を


 大規模通販などにBtoCのマーケティングオートメーション(MA)ツール「Aimstar」などを提供している。

 

 大規模ECは、顧客・商品数・データ・チャネルの多さが特徴だ。多くの企業が、顧客に寄り添った「One to One」の施策を望みながら、大量の顧客のセグメントをどう切るか、作業・分析の手間がかかる、チャネルをまたいだアプローチができないなどの課題を抱えている。


 「One to One」を誰でも実現可能にするのがMAツールだ。大規模EC向けシナリオは、「ユーザー行動トリガー」「興味あり商品トリガー」「企業トリガー」に分けられる。ユーザー行動トリガーは、顧客ごとのアプローチで配信数は少ないがコンバージョンレート(CVR)は高い。

 

 一方、セール、情報などの企業トリガーは、CVRは低いが配信数が多くなる。このトリガーをミックスしたシナリオ作成が大事だ。「ターゲティング」「オファー」「タイミング」「チャネル」の決定もポイントで、3つのトリガーと4つのポイントを組み合わせたシナリオ作成が求められる。


 Aimstarにはデータ統合機能、100種類以上の分析テンプレートを使ったターゲット抽出機能があり、キャンペーン自動生成なども可能だ。複雑なシナリオもカバーできるMA基盤になる。AI・機械学習により自動化を拡大できるのも特徴の一つだ。


 ウェブ接客ツール「Webica」は複雑なセグメントに対応。チャネル横断アプローチに加え、既存システムやDM、コールセンターとの連携も可能。MAツールは顧客との関係維持のために必須のインフラだ。オムニチャネル対応、汎用性・拡張性に優れたツールの選択も鍵を握る。

 

 

セッション3 [Web接客・売上向上支援]

サイト改善、CV向上に貢献するWeb接客
〜CVR30%増をたたき出す秘訣と成功事例〜

Sprocket 

代表取締役社長

深田 浩嗣 氏

 


「おもてなし」をデジタル化

 ウェブ上での企業と顧客の関係に日本古来の「おもてなし」を取り入れたいと考え、200社以上の企業のコンバージョン改善を手がけてきた。オンラインで「おもてなし」のコミュニケーションを取るにはどのようにすべきか。基本的には、実店舗と同じような「ワン・トゥ・ワン」の接客が大切だ。


 ウェブ接客を考えるとき、ユーザーの利用シーンの変化を避けて通ることはできない。ほとんどの顧客がパソコンではなくスマートフォン(スマホ)からサイトにアクセスしている。その結果、画面が小さくなり、ながら見が多くなる。ぶつ切りの時間のなかで情報に接触しているわけだ。ウェブ上の情報量は増えている。ユーザーは必要な情報にたどり着けず、ひと目で見つけられなければ、別のサイトに流れていく。


 ウェブ接客には、「ポップアップ型」と「チャット型」がある。当社の強みはポップアップ型だ。ポップアップをうるさいと感じられることもあるが、うまく使えば気が利いていると感じてもらえる。 


 ユーザーに届く接客シナリオをつくることが非常に重要な時代になりつつある。ユーザーが情報収集からコンバージョンに至るまでを一貫して把握するカスタマージャーニーという考え方も大切だ。


 カスタマージャーニーの段階ごとの、顧客の心理は、実店舗でも変わらない。トップページに、セールや新商品のお知らせをポップアップで出すことでユーザーを誘導することは多いが、それだけでなく、ポップアップで顧客心理をいかにつかむかは、コミュニケーションの性質次第だ。


 「おもてなしのデジタル化」の効果は、「心地よい接客体験」と「お客さまの態度変容」に表れる。

 

 

 

 

セッション4 [ロイヤリティ向上]

アプリで進化する新たな購買体験

ヤプリ 

執行役員 CCO 兼 エバンジェリスト

金子 洋平 氏

 

 

アプリ利用者へのプッシュ通知が鍵


 今やスマホは若年層向けのデバイスではない。60代でも約7割がスマホユーザーでライフツールとして欠かせないものになっている。当社はエンジニアでなくても、アプリを運用・構築できるサービスを提供している。国内300社以上の公式アプリの裏側を支えるシステムだ。


 最近のインスタグラムは動画が主流だ。ショッピングのカテゴリーもあり、インスタグラムをECのプラットフォームとして、購買につなげることも可能になっている。


 時間限定のライブコマースにより、リアルタイムのセールなども行われている。イケアのアプリを使って部屋の写真を撮ることで、家具の配置を拡張現実(AR)の技術で確認することができるようにもなっている。100億円還元のキャンペーンが数週間で終了したペイペイは、アプリを起動することで可能になる革新的な決済方法だ。


 単にモノを並べて、顧客の来店を待つ時代は終わりに近づいている。各社とも、アプリを使った技術革新や新しい買い方などに挑戦している。アプリは顧客にダウンロードをしてもらわなければならない。そのため、新規顧客や見込み顧客はウェブで獲得し、リピーターやロイヤルカスタマーにアプリを提供することで、より深いエンゲージメントを提供できる。


 アプリを利用する顧客へのプッシュ通知は送った瞬間からサイトへのアクセスが集中する。プッシュ通知は、いま伝えたいことを伝えるには非常に効果的な手段だ。


 今後は、企業のデータと連携することで、配送状況やポイントカードの期限切れなどカスタマイズしたプッシュ通知が可能になり、顧客満足の向上にも寄与するだろう。


クロージングセッション

カタログ・テレビ通販におけるECが果たすべき役割と取り組み

ディノス・セシール 

CECO(Chief e-Commerce fficer)

石川 森生 氏

 


3メディアの相互補完で価値創出

 当社は、顧客に対するアプローチ手段として、「カタログ」「テレビ」「EC」という3つのメディアを持つ。

 

 メディアごとの役割について分類して考えたい。まず新規顧客獲得についてだ。カタログは、若年層の入口としての親和性、年配層の伸びしろの両方で厳しい状況にある。テレビは、実感値として圧倒的なリーチボリュームがある。ウェブは、日進月歩でテクノロジーが進化し、若年層への有効なリーチ手段である。年配層もECでの買い物体験が増えている。


 次に顧客維持について考える。カタログはリーチ確率が高いが、コストがかさむ。テレビを使った顧客維持は難易度が高く、ウェブは配信頻度が短いために顧客維持が容易だ。


 カタログとテレビは、潜在顧客の購入を後押しする力がとても強い。制作面での参入障壁が高いためライバルが少なく、残存者利益は高い。ウェブには購買を後押しする強い力はないが、一度つくったコンテンツをSEO(検索エンジン最適化)に紐づけながら半永久的に使って資産化できる。


 SNSの出現後、消費者の行動モデルは、アテンション(企業による注意喚起=広告)からディスカバリー(消費者による情報の発見)へ移っている。


 しかし今後は、タイムライン型のせわしないディスカバリーからの反動がくるのではないか。アテンションとディスカバリーの機能併存により、再びカタログのアプローチが現代にフィットすると考えられる。
 カタログ・テレビ通販とECは、特性が異なるメディアである。それぞれの相互補完で長所だけを使うことができたら、弊社固有の提供価値を生み出すことはできるだろう。

 

 

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