日経MJフォーラム「EC事例大集合」 〜実践企業に学ぶ売り上げ拡大への道〜

 人口減少で国内消費が盛り上がりに欠ける一方、電子商取引(EC)の売り上げは好調だ。
成長分野だけに参入企業も多く、競争は激しさを増している。ビジネスチャンスを逃さないためには何が必要か。日本経済新聞社は6月中旬、東京都内でECの様々な事例を紹介するフォーラムを開催。具体的な導入事例などを紹介し、売り上げ拡大の方策を探った。

 

基調講演

 

「Amazonの経営哲学と地球上で最もお客様を大切にするマーケティングの取り組み事例」

アマゾンジャパン
コンシューマーマーケティング ディレクター/
統括本部長
鈴木 浩司 氏

ビジネスカルチャーと顧客へのこだわり

 アマゾンは14カ国に約3億人のアクティブカスタマーを持ち、売り上げも激増したが営業利益はほとんど変化がない。これは企業理念である「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」へいかに本気で取り組んでいるかの結果であり、それを実践すべく売り上げの約21%を顧客満足向上のために継続投資している。


 アマゾンジャパンにおけるマーケティングでは、短期的な利益のみを追求するのではなく、どのようなマーケティング施策が長期的なお客様の価値を導くのかという本質的な議論を様々なビジネスカルチャーを駆使することで実現している。またこれらの顧客フォーカスの長期的な投資の仕組みにより、まだECにて受け入れられていない新しい商品や革新的なサービス・プログラムなどへ、顧客の反応を細かく分析しながら実験的な投資アプローチを可能としている。

 

セッション①  ECサイト構築

 

「販売機会を逃さない! コメ兵、アメリカンイーグルなど有名企業にみる自社EC事例を紹介」

コマースニジュウイチ
セールス&マーケティング部 マネージャー
田村 信博 氏

豊富な導入実績と多岐にわたる連携

 我が社は1999年創業のECパッケージベンダーだ。製品は完全に自社製でセミスクラッチ型、顧客は有名企業が多く、大型ECや特殊なデジタルコマースシステムの構築・運用実績があり、多岐にわたる企業と連携している。

 

 オークションサイトなども構築している。一例が中古品販売のコメ兵。主力の販売・買い取りサイトのほかに、タイヤ・ホイールの中古販売・買い取りサイトとBtoB向けオークションサイトをすべて同じプラットフォーム上で構築した。


 コメ兵におけるECシステムの役割は、「販売チャネル」「メディア」「店舗の業務インフラ」の3つ。品物を見て買いたい顧客も多いので、ECは申し込みのみで購入は店舗で行う取り置き・取り寄せも多い。


 このほか、アパレル企業、アメリカンイーグルのECも手掛けている。デジタル会員カード発行機能から検索一覧、商品詳細ページなど、アパレルならではのこだわりに対応している。

 

セッション②  複数店舗の一元管理

 

「人気スニーカーショップatmosの成長を支える、EC11店舗のバックヤード運用とは」

アイル CROSSMALL事業 マネージャー
本守 崇宏 氏

店舗とECの商品・在庫一元化を実現

 アイルの複数ネットショップ一元管理ASPソフト「CROSSMALL(クロスモール)」は、各サイトで処理が必要な商品登録、在庫管理、受注管理、発注・仕入れなどを一元管理できる。複数モールへの在庫の自動連動も可能。各モールの仕様変更や新ECサイトの立ち上げの際にもクロスモールをつなげば対応がスムーズだ。

 

 導入例では靴専門店atmosがある。同社はEC店舗を2001年に始め、現在はモール・カートを含め11のEC店舗がある。「複数店舗のデメリットは在庫のずれ。売り越しによるクレーム対応や在庫探しの労力もかかる。クロスモール導入で在庫管理が正確になった」との評価も得ている。同社は14年から実店舗閉店後の夜間のみ店舗在庫をECに掲載し、大きな効果があった。
 ECのバックヤードで働く人にスポットをあてたバックヤード特化型メディアB・Yを始めた。やりがいや工夫を共有できるメディアとして展開していきたい。

 

セッション③  CRM/マーケティングオートメーション

 

「コメ兵、マードゥレクスなど成長ECが実践するCRM戦略
~収益アップにつながるセグメント&施策一挙公開~」

プラスアルファ・コンサルティング
副社長
鈴村 賢治 氏

顧客別に個別対応CRMを自動化

 当社の「カスタマーリングス」は複数ECサイトの顧客情報管理(CRM)戦略を支援し、約400社の導入実績がある。多くの企業がCRM戦略のためのセグメント作成や単純作業の多さに悩んでいる。メール開封率アップを狙うにはピンポイントでの配信が有効だが、自動化が不可欠だ。

 

 「カスタマーリングス」は複数データの集約・分析機能を備え詳細なセグメントをワンツールで管理できる。顧客の行動や購買履歴から優良客を見極め、顧客ごとにアプローチを変えることも可能だ。

 

 化粧品通販のマードゥレクスは、1回のみの商品購入者にリテンション施策を行い、スキンケア製品の定期購入へ導いている。実店舗とEC通販を営むリユース業のコメ兵は、非効率なメール全配信ではなく「カスタマーリングス」でデータをセグメントし顧客に適した販促を進めている。


 単純作業はツールを活用、ノウハウや考えることに時間を割くことが差別化になる。

 

セッション④  ECサイト構築

 

「ABCマート・ハニーズなど先進オムニチャネル事例を紹介 マーケティングが変わる!」

ecbeing 
社長
林 雅也 氏

顧客接点を多様化 利便性上がり好評

 

 当社は中堅大手を顧客に持ち、導入実績は1000を超えた。事例では靴専門店ABCマートがある。2012年にECや交流サイト(SNS)など様々なチャネルを統合するオムニチャネルを開始、スマートフォン向けサービスの改善や情報メディア化も始めた。

 

 ECで商品を予約し、店舗で受け取るサービスは効果があった。接客次第で他の商品購入に導ける利点がある。店舗に在庫がない場合、タブレットから注文するアイチョックも好評だ。

 

 アパレルのハニーズでも店舗とEC連携のポイント制度などを改善した。画像共有サイトとの連携ツールを開発、一般ユーザーの画像との連携も可能になった。検索や一般ユーザーへの許可の仕組みなど手間のかかる作業を簡素化した。

 

 オムニチャネルは進化し顧客との接点も多様化した。バナー広告が見込み客との最初の接点になる場合もあるためデータ蓄積や総合的な分析が大事になる。

 

セッション⑤  スマートフォンアプリ

 

「成長通販の人気アプリを徹底解剖!〜ディノスにみる売上直結型のECアプリとは?〜」

ヤプリ
エヴァンジェリスト
金子 洋平 氏

アプリに特化し囲い込みで優位に

 

 当社は2013年設立のスマートフォン(スマホ)に特化した企業で4月に社名をヤプリに変更した。スマホの利用はウェブブラウザーからアプリへシフト。ニュースや天気、株価など目的に応じたアプリ利用者が増えECでもアプリ経由の売り上げが伸びている。

 

 売り上げ直結型ECアプリの事例ではディノスのアウトレットアプリがある。値引き商品に特化し、セール情報を頻繁に更新している。アプリの特徴であるプッシュ通知機能は開封率が高く、効果はメルマガの3倍ともいわれ、リアルタイム集客に役立っている。

 

 アプリは新規顧客獲得には不向きではあるが、リピーターや優良顧客の囲い込みツールとして効果がある。

 

 ヤプリは自社アプリの開発・分析ができるアプリ制作プラットフォームだ。プログラミング不要、管理画面が直感的で簡単、自動バージョンアップなどの特長がある。進化が速いモバイル業界でアプリに特化したヤプリは優位性がある。

 

セッション⑥  プライベートDMP/マーケティングオートメーション

 

「ブックオフオンラインの事例に見るプライベートDMP+マーケティングオートメーションの成功の秘訣とは?」

アクティブコア 
社長
山田 賢治 氏

顧客ごとの施策で購入会員率向上

 

 当社は「プライベートDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)」「レコメンド」「マーケティングオートメーション」をすべて自社開発し、クラウド環境で提供している。

 

 導入先のブックオフオンラインのECサイトは、月間3300万PV、月間注文数20万件、会員数は350万人の巨大サイト。購入データベース(DB)、買い取りDB、会員DB、商品DB、在庫DBをプライベートDMPで機械学習し、分析レポート、レコメンド、マーケティングオートメーションができる。

 

 2015年にシステムを導入。顧客を見える化し、5回以上購入の優良顧客から最終購入後180日以上経過している休眠顧客にまで分けて階層ごとに施策を打ったところ、2回以上購入会員率が向上した。

 

 成功の秘訣は「導入目的をはっきりさせる」「小さなアクションで生かす」「他者から学ぶ」「ツールはツールでしかないと知る」ことだ。

 

セッション⑧  モバイルWeb

 

「Googleが提唱するPWAとは?~ランコム(USA)の最新モバイルWeb事例紹介~」

ドーモ 
カスタマーサクセスチームCTO
大賀 匠竜 氏

AMPとPWAのハイブリッド利用

 ドーモが提供するモビファイは、既存のパソコンサイトを活用して、スマートフォンやタブレット用にコンテンツのカスタマイズが可能なモバイルプラットフォームだ。

 

 モバイル戦略の課題を考えると8割がアプリ、2割がウェブという現状だが、2019年までに2割の企業がアプリをやめるとの予測もある。そこでアマゾン、アップル、グーグルといった巨大プラットフォームを基準にユーザーの期待値が上がっている。

 

 モビファイには、アプリライクなUX、ウェブプッシュ通知、A M P(アクセラレイティッド・モバイル・ページ)、店舗検索、コンテンツ管理、決済などの機能を搭載している。アプリフレームを導入してリッチな表現を可能にしており、スムーズでシームレスな体験が可能だ。

 

 モビファイは、AMPとPWA(プログレッシブ・ウェブ・アプリ)を組み合わせることでスピードの速いウェブサイトを可能にしている。

 

セッション⑨  マーケティングオートメーション

 

「One to Oneを実現した「dマーケット(NTTドコモ)」のMA事例」

NTTドコモ 
コンシューマビジネス推進部 
サービス戦略 サービス戦略担当主査
長谷川 誠 氏

ロイヤルユーザーを育成するためのMA

 

 dマーケットはNTTドコモが提供しているお客様向けBtoC事業の総称だ。現在16 ストアを展開している。契約数は1600万を超え、今後も契約者数を増やすとともに利用者数の増加をもくろんでいる。

 

 dマーケットがOne t o O n eのM A(マーケティング・オートメーション)Aimstar(エイムスター)を導入したきっかけは、ロイヤルカスタマーの育成だ。そのために、お客様に寄り添った内容を、一番気にしているタイミングで提供する施策を実施している。手動では限界があることから、MAを導入した。

 

 ロイヤルカスタマーに複数のストアを継続的に使ってもらうことで、dマーケット全体の粘着性が高まり、最終的に収益アップにつながることを目指した。MA導入の際、重要なことは、目的を明確にすることだろう。ツールに対するこだわりはなかったが、エンジニアではなくマーケッターがいつでも触れるツールであることを重視した。

 

特別講演

 

「ディノス・セシールが見据える5年後10年後に向けたEC戦略とは」

ディノス・セシール CECO
(Chief e─Commerce Officer)
EC本部 EC企画部 ゼネラルマネージャー
石川 森生 氏

最も「欲しい!」を生むマーケティング

 ディノス・セシールは、売上高1200億円規模のカタログ通販企業だ。ECビジネスの展開を考える際、まずは機能別に分けて考える必要がある。


 カタログはリーチ確度が非常に高く、潜在顧客の購入を後押しする力が強い。しかし、若年層の入り口としては親和性がなく、年配層には伸びしろがない。ウェブは新規顧客の獲得窓口として期待度が高い。


 そのため、今後はECをうまく利用しないと通販業界自体の伸びはない。ウェブとカタログは特性が異なるメディアであり、相互補完の関係を確立する必要がある。


 顧客ごとに心地よい購買環境は違う。ウェブは機動力のあるオファー提示が可能な媒体で、カタログは丁寧なプレゼンテーションができる媒体だ。


 今後、通販企業に必要なのは、商品特性にあった施策をデジタルに落とし込むことであり、最も「欲しい!」が生まれるECサイトを構築することだろう。

 

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