日経MJフォーラム「オムニチャネル戦略 成功の秘訣」~顧客理解とデジタルチャネルの強化を急げ~

 ユーザーの購買行動が多様化する現在、リアル店舗やECをはじめ、さまざまなチャネルを統合したオムニチャネル戦略が求められている。そこで日本経済新聞社では、東京・大手町の日経カンファレンスルームを会場に「オムニチャネル戦略成功の秘訣」と題したフォーラムを開催。オムニチャネル先進企業が顧客理解とデジタルチャネルへの取り組みを紹介し、その成功の秘訣を説いた。

 

オープニングセッション  WEBプラットフォームを活用したビームスのオム二チャネル戦略

 

ビームス 開発事業本部 EC統括部 副部長
矢嶋 正明氏 

人中心のオムニチャネルでお客様とスタッフをつなぐ

 ビームスは1976年創業、昨年40周年を迎えた。創業当時はまだファッションに関する情報やメディアは少なかった時代。「日本の若者の風俗・文化を変えよう」をスローガンに、ファッションビジネスを展開してきた。原宿1店舗からはじまり、現在、国内外約150店舗に成長。eコマースは自社ECの他、ゾゾタウンなどに出店している。

 

 近年小売業全体が抱えている問題に、既存店における前年比の鈍化と販売員の人材不足がある。EC導入当初は、ECが急激に成長したため、EC部門とリアルの対立という構図が発生。かたやECモールも売り上げ自体は上がっても在庫回転率が鈍化。その改善がない限り、リアル店舗との在庫の奪い合いも起こり得る。

 

 スマートフォン(スマホ)が出回り、顧客はすでにオムニチャネル化している。実店舗での接客を重視してきた我々に、オムニチャネル後発組として何ができるか。取り組みの第一歩としてまず行ったのが、自社ECサイトの直営化である。ビームスは30に及ぶブランドの集合体であり、一元化するためそれぞれのオウンドメディアのサイトを統合。さらに自社EC専用撮影スタジオの新設、自社EC専用物流システムの構築、自社EC専用オペレーションシステムの導入、顧客システムの全面刷新、マイページ統合を実施した。直営化の目的は在庫流動性の向上である。薄い在庫を幅広いチャネルに送ると鈍化する。自社倉庫で在庫の一元化を行うことで、リアル店舗との共有化を実現し、可動性アップにつなげた。また新サイトにはスタッフ投稿コンテンツやタイムライン機能を設置。個性豊かなスタッフのスタイリングを随時発信することで、デジタルを通じてユーザーとのつながりを高めた。いわばスタッフのオムニチャネル化である。

 

 プラットフォームを介しスタッフが本気で語ることで、顧客がその思いを受け取る。顧客とスタッフがどのチャネルでもつながる、それが人を中心としたビームス流オムニチャネルだと考えている。

 

セッション① オムニチャネル時代のマーケティングに役立つ顧客管理 〜成功企業に学ぶ効果的手法〜

 

SCSK 流通システム第二事業本部 流通・CRMサービス部 課長
西谷 友宏氏 

最小コストで最大利益を目指すシンプルな顧客管理活用術

 顧客を取り巻く状況は日々オムニチャネル化。ソーシャルメディアの広がりによりさまざまな場所から商品の情報が手に入れられる状況にあり、企業側はそれに対応した顧客管理が必要。すなわち、氏名・年齢などの基本情報、注文履歴などの取引情報に加え、ICTの革新により測定可能になったメール開封などの行動情報を活用した顧客志向のコミュニケーションが必要とされている。

 

 顧客管理の課題でよく耳にするのが、基幹システムが顧客DBに統合されているため重くスピードが出ない、新しいチャネルの追加など項目の変更にコストや時間がかかるといった声である。それらを解決するのが独立性だ。基幹システムとは別に、専門の顧客管理の仕組みを作ることで軽くシンプルになる。次に必要なのが拡張性。外部環境は刻々と変化し、新チャネルへの柔軟な対応が求められる。店舗の近くをユーザーが通るとセール情報が届いたりと、リアルタイム性も必要だ。さらに重要なのは活用可能であること。例えば顧客のランクなど軸となる情報をマーケティング・オートメーション(MA)に渡せば、現場での対応もスムーズになる。それぞれの接点で必要な情報を必要な形で提供し、コミュニケーション力アップに貢献する。また基幹システムと統合顧客基盤を切り離すことで、サービスを導入する際も圧倒的なコスト削減が期待できる。

 

 当社の扱う「エンプレックス」は、運用負荷を抑えつつ、MAの導入効果を最大化する「統合顧客管理ソリューション」。昨年リリースし、ユーザーとの接点で顧客満足向上に必要な情報を統合管理・配信している。

 

 今後は、社会への貢献と、企業の存在価値の向上をより強く求められ、満足度、推奨度、再購入意向などのロイヤルティー指標を管理・向上していくことが、さらに重視されるだろう。

 

セッション② オムニチャネル戦略の決定版、自社アプリのリアルな効果

 

ファストメディア マーケティング・マネージャー
佐藤 裕子氏

ユーザーと最も近いツール 広がる自社アプリの可能性

 スマホにおけるアプリの利用状況は成長を続け、一日のスマホ使用時間のうち約80%をアプリが占める。特に伸びが目覚ましいのがショッピング系アプリで、実際昨年あたりから大手小売企業における自社アプリの導入が続く。そもそもアプリの利点には、スマホ画面へのアイコン設置によるブランドのアピール効果、アプリならではの快適な操作感、到達率の高いプッシュ率といった特徴が挙げられる。

 

 アプリのポジショニングとして重視されるのが、リピーターやロイヤルカスタマーの育成だ。当社をご利用いただいている企業のなかにはアプリの特性をうまく活用し、導入後会員数を50%伸ばしたアパレルブランドの例がある。同社はポイントカードの一層の利用活性化とEC強化のためアプリを導入。結果、店頭におけるレジ前のオペレーションがスムーズになるなど作業効率が向上し、加えてアプリ経由のEC売り上げがウェブ広告やメルマガを上回る成果を生んだ。

 

 自社アプリ導入の流れは、アカウントの取得にはじまり、ストア申請、審査を経て、公開までおよそ2週間。公開後はまずダウンロードへの誘導が不可欠であり、スマートバナーの設置、メルマガ配信、SNSなどで告知を行う。さらにアプリ限定セールや限定コンテンツを掲載することで、ダウンロード数も伸びていく。

 

 当社が提供する「ヤプリ」は、アプリに必要な機能をオールインワンで取りそろえたクラウド型アプリ運営プラットフォーム。プログラミングは不要で誰でも簡単に自社アプリを作ることができ、また「ヤプリ」側が自動バージョンアップを行うため常に最新の機能が利用できる。リリース後は2 0 0社以上の実績とノウハウを駆使し、カスタマーサービス部がフォロー。自社アプリというとハードルが高いと思われがちだが、ユーザーとの接点を考えたとき今最も利用者と距離の近いツールであり、ぜひ幅広い企業に導入してもらいたい。

 

セッション③  2017年不可避なオムニチャネル3つの課題解決方法

 

フォースター 代表取締役
JECICAジャパン Eコマースコンサルタント協会 代表理事
川連一豊氏

オムニ時代成長期が到来 企業が今すべき戦略とは

 オムニチャネルの勢いが加速する今、人、物、お金、すべてのオムニチャネル化が進む。人はすでにオムニチャネル化し、情報受信側から情報発信の役目も担うようになってきた。スマホで写真を撮り、インスタグラム、フェイスブックでアップする。小学生でも情報発信し、ネットで年収4千万という事例もある。

 

 IOTが進み、物もオムニチャネル化されている。アマゾン「アレクサ」はすでに700以上の商品に搭載され、「アマゾンダッシュボタン」は検索の手間なくボタン一つで商品が届く。お金はどうか。ポイント、クーポン、そして仮想通貨と、現金だけでなくさまざまな支払い方法が選択可能になっている。「アップルペイ」、ペイパル「ワンタッチ」、「ウィーチャットペイメント」が大躍進。スマホにお金を入れて使い、SNSで発信して拡散し、物や人すべてにつなげる。

 

 人、物、お金のオムニチャネル化が進む一方、企業は守りに入り出遅れている。顧客の一元管理、データの一元管理など、オムニチャネル化はどうしても時間がかかる。しかしその必要は間近に迫っている。多くのタッチポイント対応、グローバルSNS対応、仮想通貨を含めた簡単決済対応、複数の動画対応においては早急な取り組みが望まれる。

 

 2017年、オムニチャネルですべき課題は3つある。1つ目は、グローバル対応・システム対応。最初の第一歩はショートカット戦略で考え、システムは軽く、さらに連携に強いものから着手する。まずは一部でもいい、すぐ導入できるものから取りかかりたい。2つ目は、新サービス要件・新ビジネス要件を考えること。もはや不可避となったオムニチャネルを見据えた戦略だ。3つ目は、人材確保。外部を含めてオムニチャネルに強い人材、任せられる人材を確保する。2017年はオムニ時代成長期の始まり。一刻も早いスタートが必要であり、すでに取り組んでいる企業はさらなる前進が求められる。

 

セッション④  デジタル&AI、これからのオムニチャネル接客

 

ヴィンクス 執行役員 デジタルサービス事業本部 副本部長
稲葉 将氏

ユーザーの感性を認知するAIを活用した新たな接客

 これからのオムニチャネル接客で重要な役割を担うAI。当社の取り組みを例に、その可能性を紹介したい。

 

 我々の持つプロダクトとパートナー様のサービスを組み合わせるのが当社のスタンス。これをクラウドと業務運用でつなげ、最適なオムニチャネルを実現している。先ごろカラフル・ボードと業務提携を結び、AIプラットフォーム「SENSY」を活用したデジタルサービスの共同開発に着手した。昨今さまざまなAIが世に出てきているが、「SENSY」のAIアルゴリズムは画像とテキストの組み合わせに特化し、感性をディープラーニングする点が特徴だ。「SENSY」の機能を駆使すれば、ファッション、音楽、旅行など、あらゆるライフスタイルの感性を取得し、パーソナライズして個々にコンテンツを届けることが可能になる。

 

 これまでもユーザーがクリックした情報や、購入した商品情報を分析に使用するといった作業はリアルとネットの両方で行われてきた。だがシーズンが変われば販売する商品も変わり、感性を含めた分析が必要になる。そこでAIの出番となる。例えばファッションの提案をタブレットで行いながら、AIが分析した情報をもとにユーザーの嗜好に合った化粧品やデザートの提案を行うこともできるだろう。またこうした行動により顧客に対する店員の接客が変わり、店員やブランドのポジション向上も見込まれる。とはいえいくらAIが情報を分析しても、割り出された商品に在庫がなくては販売することはできない。AIを使って得た情報をPOSやECの情報と連携することで実際の販売につなげることが必要だ。

 

 異業種とのプロモーションも検討している。まずスーパーやドラックストアなど取引先のPOSデータとAIの顧客情報のひも付けを行ってみたい。リアルの購買データと趣味嗜好をマッチさせることで接客に役立て、データの一元化により売り上げにつなげる研究を進めている。

 

クロージングセッション  MUJI(DIGITAL)MARKETING

 

良品計画 WEB事業部部長
川名 常海氏

ネットと実店舗の補完関係で顧客との良好な関係を築く

 私たちが一日に目にする広告はおよそ3000件といわれている。だが振り返ってみても、何を目にしたかほとんど覚えていないのが実情である。スマホなどさまざまなデバイスの普及で情報過多になり、加えて物あふれという実情もある。僅差の付加価値競争が進むなか、生活者が何を頼りにするかというと、SNSでありレビューや口コミだ。

 

 当社が重視しているのは、何をもって「無印良品」というブランドを認知したか、購入した商品に満足しているか、それでどんなライフスタイルを送っているかという点にある。売って終わりではなく、お客様をより良く理解し、商品やサービスでフィードバックする。ブランドサイトへの訪問動機を調べると、買い物前の商品チェックが大半で、新商品やキャンペーン情報、店舗情報のチェックと続く。1人のユーザーがネットとリアル店舗を行き来しており、両者の補完関係、相乗効果を構築することが売り上げ機会の最大化につながるという結論に達した。

 

 当社におけるデジタルマーケティングの一つの転機になったのが、自社アプリ「MUJIパスポート」の導入である。アプリ形式の会員証であり、ネットやリアル店舗での買い物のほか、ネット上でのコメントなど購買前の行動に対してもマイルを付与している。根底には、売り上げ重視の手段ではなく、顧客との長期的な関係構築を狙う意図がある。2013年5月にアプリをリリースし、現在アプリダウンロード数は870万を超え、月間アクティブユーザー数は250万人を超える。利用動機としては、トップが月間約250通配信しているニュースの閲覧、2番目がレジでの提示で、アプリはもはや一つのメディアとして確立されているのがわかる。

 

 スマホが普及した今では生活者がデジタル化し、来店前にほぼ購入の意志決定を行っている。ネットは強力な接客ツールであり、マーケターは守備範囲をデジタルとリアルの領域まで拡張していくことが今後のスタンスとして重要だと感じている。

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