小売店経営の課題解決!  消費行動の変化踏まえて来店促す仕組みづくりを

繁盛する店づくりのためには、消費者の姿を的確に捉える必要がある。店舗運営を支援するサービスの活用も欠かせない。個人消費に改善の兆しが見え始めたとされる今だからこそ、次の変化に備えておくことが大切だ。消費行動の変化や店舗づくりの課題などについて、流通事情に詳しい船井総合研究所の宇都宮勉氏に話を聞いた。

 

 

 

近場志向強まる

 最近の消費行動を分析すると、消費者は「近場志向」を強めているようです。わざわざ自動車で1時間かけて買い物に行くのではなく、自転車や徒歩で行ける店舗で買い物を済ませるようになりました。小商圏で成り立つコンビニやドラッグストア、ターミナル駅構内の商業施設などが業績を伸ばしているのはそのためです。高齢者による運転免許証の自主返納や若者の車離れ、即日配達が可能なネット通販の浸透なども、近場志向に拍車をかけています。
 
 消費者の節約志向はさほど強まっていませんが、買い物の単価は下がっています。その背景にあるのも近場志向です。日常的な金銭感覚と、移動時間や移動コストをかけた旅行先での金銭感覚が大きく異なるように、移動距離が短くなるほど消費者はお金を使わない傾向にあります。
 
 こうした消費傾向を踏まえて、自動車で来店することを前提につくられた郊外型の総合スーパー(GMS)やショッピングセンター(SC)は、非物販のテナント誘致に力を入れ始めました。フードコートや映画館、親子で楽しめる料理教室、子どもの遊び場、フィットネスクラブなど、「コト消費」を促す仕掛けが集客の核となっています。
 
 一方、交通の利便性が高いエリアに立地する百貨店は、売り場を見直すことで集客力の改善を図っています。主力だったファッション部門の比重を減らし、デリカ(総菜)やスイーツ、飲食など売り上げが伸びている分野を強化。近場志向を受けて、自宅などに出向く外商を強化する動きも活発です。改装時に外商サロンを拡充する例も増えています。

 

 

支援サービスも豊富

 小売店の店舗運営を支援するソリューションの進化も加速しています。例えば客離れの大きな要因になるのが欠品です。以前は売れ残りによる在庫リスクが問題視されましたが、現在では売り逃しリスクの方が大きくなっています。
 
 そこで過去の販売データに基づいて、天候や近隣でのイベントの有無などによる需要の変化を予測。最適な在庫数量を予測するシステムの開発が進んでおり、今後は人工知能(AI)の活用も期待されます。
 
 人手不足も大きな経営課題です。店内作業に労力を取られ、接客サービスの質が低下すれば、客離れに直結する恐れがあります。
 
 店内作業で手間と時間がかかるのは、検品や品出し、陳列などです。その時間を短縮し業務負担を軽減するため、卸売業との関係強化を図る例が増加しています。
 
 例えば納品時のパッケージのまま陳列できるように工夫を求めたり、売り場の一角について、商品の供給から陳列、販促まで担う「ラック・ジョバー」に任せたりするのは好例です。卸売業各社はこうしたリテールサポート機能を進化させており、店内作業を軽減するサービスが豊富にそろうようになりました。
 
 繁盛店をつくるためには、POS(販売時点情報管理)データの見方を工夫することも必要です。例えば消費行動の変化などを踏まえて数年に一度、レジの商品分類を変更。分析軸を変えることで、昨対比を追うだけでは見えなかった売れ筋・死に筋を見極めます。意識的に視点を変えて、そこから得られた知見を店づくりに生かすことが大切です。

 


 

《繁盛する小売店づくりのポイント》

 

①消費者の近場志向に対応する

小商圏で成り立つ業態の開発や、非物販の拡充による集客力の強化など、近場志向の消費者を呼び込む仕組みづくりが必要だ。

 

②店内作業を軽減するサービスを利用する

卸売業がリテールサポート機能を強化している。うまく活用することで、検品や品出し、陳列など、手間と時間がかかる作業の負担を軽減できる。

 

③IT(情報技術)の活用法を考える

AIなどでより精度の高い需要予測ができれば、小売店経営を大きく支援するものになる。POSデータは分析軸を工夫することで、昨対比を追うだけでは見えなかった事実に気付けるだろう。

 


 

 

 

宇都宮 勉氏(うつのみや・つとむ)

船井総合研究所
上席コンサルタント

 

1991年船井総合研究所入社。これまで300 社以上の国内流通業(メーカー・卸売業・小売業)やサービス業の開発・活性化に携わる。独自の切り口によるマーケティング分析に定評があり、新業態・新店舗の
開発から従業員教育まで、オールラウンドに的確な提案を実施している。