買い物に「わくわく感」を  ~毎日がもっと楽しくなるために~②

2013.8.20

流通経済研究所 
研究員

地田 圭太

記事概要イメージ画像

地田 圭太(ちだ・けいた)
2012年(財)流通経済研究所に入所。食品スーパーなど店舗における消費者の購買行動や、消費者の意識する買物価値などについて研究している。

  • 1

 さて、前回は各社がマーケティングを進化させている現状を提示しつつも、それだけでは不十分で、購買者の心理面に触れる必要があるという問題提起を行った。では、購買者が何を感じているのかを見てみよう。

 

 我々にとって、「買い物」とは何だろうか? 日常の買物を思い出してみると、日々こなさなければならない家事のための買い物というイメージが強い。必要に迫られて、ルーチンワークとして……など、ややもすると消極的なイメージになりがちである。もちろんそれだけが買い物ではない。日頃頑張った自分へのごほうびや、恋人へのプレゼントとして商品を購入するといった特別な意味での買い物であれば、楽しみに思うはずだ。先日筆者は、最近開業した千葉県内のアウトレットモールを訪問した。悪天候にもかかわらず、駐車場への道は渋滞し、敷地内に入るだけでも多くの時間を要した。アウトレットモールに向かう人々は、買い物を心待ちにし、今日はどんなブランド品を買おうか思いを巡らすことが多いだろう。しかし、ここでは「日常の買い物」を前提に考えていく。

 

 

購買者の心理に迫る

 実際のところはどうか、主婦の声を聞いてみよう。昨年流通経済研究所では、主婦を集めて、食品スーパーにおける日常の買い物に関するグループインタビューを行った。その中で「皆さんにとって、買い物とは何ですか?」という司会者の問いかけに対して、主婦からは「楽しみ」という声も一部では聞かれた一方、「しなければならないもの」「日課」といった声が多く上がった。

 

 仕事や家事などで余裕が持てないという事情はあるとしても、日々の買い物に対して消極的なイメージを持っていることには、問題意識を持つ必要がある。精緻化されたマーケティングによって、顧客別に来店への動機を強めたり、顧客にとって最適と思われる商品を提案したりすることは有効な施策ではあるが、「買いたい!」と思う気持ちを最後にひと押しするのは売場の魅力であると私は考える。どんなにマーケティングが精緻化しようとも、最終的に購買に結び付かなければ意味がなく、数々の競合店舗への流出を防ぐことも難しくなってしまう。

 

 ここで、買物における価値を2つに分けて考えていきたい。欲しい商品を安く便利に購買できるなどの「機能的価値」と、買物をすることでの刺激・驚き・喜びが得られるなどの「情緒的価値」である。2つの機能のうち、特に注目したいのが情緒的価値である。日課としての買い物が本当に楽しいと思わせるような、「わくわく感」に満ちた売場づくりが求められると考えるからである。では、どうすればわくわく感のある売場となるのだろうか? グループインタビューで得られた数々の発言から、浮かび上がるものがあった。

 

 分析の過程では、グループインタビューで得られた数々の発言から感情を抽出していくのだが、人間の感情は多岐にわたっているため、分かりやすく整理していくことが必要である。そこで、インタビュー中に出てきた数々の発言や感情を、ラッセルの感情円環モデルを用いて整理することにした。ラッセルの感情円環モデルとは、人間の感情を「快−不快」「覚醒−眠気」の2軸で分類したモデルである。まず円環モデルを図3に示す。次に、図3のモデルを用いて、グループインタビューでの発言の一部を整理したものを図4に示す。

 

図3 ラッセルの感情円環モデル

 

図4 感情円環モデルを用いて、発言の一部を整理したもの

 

 

売場のポイントは「選ぶ楽しさ」「季節感」

 グループインタビューによると、店舗全体の評価としては、広々としている売場や明るい売場については、おしなべて評価が高い結果となった。一方、初めての人にとって入り辛く感じるお店や、往々にして古い商店にありがちな薄暗い雰囲気のお店には行きたくないという声が多かった。

 

 次に売場の評価に移ってみた。すると、インタビューから抽出された感情の多くが、覚醒度の高い快感情に分類される結果となった。その中でも、「選ぶ楽しさがある」「季節感を感じられる」といった売場への評価が特に高かった。主婦からは、そのような売場ではついつい買い物が進んでしまうとのコメントもあった。

 

 まず、選ぶ楽しさがある売場として、どのような売場(カテゴリー)であれば特にそう感じるかを聞いてみたところ、ドレッシング、パスタソース、調味料の売場が多く挙がった。いずれも、種類が多いほど選ぶ楽しみが増えるという。また、地域限定などの珍しい商品が陳列されていれば、試してみたいと思う気持ちが高まるようだ。小さな子どもを持つ主婦からは、ふりかけや冷凍食品の売場についても言及があり、種類が多いと毎日の弁当のメニューを考えるが楽しくなるという声も聞かれた。

 

 次に、季節感を感じられる売場についてだが、例えばバレンタインデーに関連した商品で催事場が構成されるなど、売場で季節感を感じることが楽しいという声が多く挙がった。ここで気を付けたいことは、季節感の演出ができるのは、バレンタインデーなど特定のイベント向けだけではないということである。例えば「猛暑日」は、生活のしやすさのみならず健康にも影響を与えている。そのような場合に、暑さを和らげたり、健康的な生活のために気づきを与えてくれたりする売場であれば購買者の支持が一層集まるだろう。最近見た売場では、冷たい麺類を中心につゆや薬味を周辺に陳列し、水車小屋の模型を置くなどの装飾を施していた。売場はそれほど大きくはないが、みずみずしく、清涼感が伝わってくる。その他の売場として、スポーツドリンクなどの飲料と、塩分の入ったキャンディーを同時に陳列し、水分と塩分の補給による熱中症対策を促す売場があった。このように、季節を意識する余裕が充分になくとも、気づきが得られることは重要であり、そのような売場は魅力的なのである。

 

 以上をまとめると、わくわく感に満ちた売場づくりの方向性としては、「売場全体で選ぶ楽しさや季節感の演出を強くし、バラエティーに富んだ売場づくり」が考えられるのではないだろうか。市場全体が縮小する中にあっても、売上や利益を向上させていくことはどの小売業も目指すところであろう。機能的価値のみでは満たせない、顧客の潜在的なニーズを充足させるために、情緒的価値を創出する売場づくりがますます必要なのである。

 

 先ほど、「買い物は日課」という主婦の声を紹介した。毎日行う買い物だからこそ、売場にわくわく感を持たせることが必要である。わくわく感のある売場では買い物が楽しくなり、一つでも多くの商品を手に取ってもらえるようになる。その先に、店舗の売上や利益の向上が見えてくると筆者は考えるのである。

  • 1